2023.02.10 掲載
有限会社匠-TAKUMI- 家具職人
長内 優依さん
糸魚川市
青森県出身で埼玉県育ち。大学卒業後、アパレルの仕事を経て、「ずっとやりたかった」椅子づくりの道へ進もうと決意。職業訓練校で家具作りを基礎から学び、2018年に糸魚川市へIターン。工務店・匠に入社し椅子の製作を担当。趣味は美しくておいしいケーキ作り。
【Q.どんな家具を作っているのですか?】
今は椅子がメインです。ウォールナットなど無垢の木材で一人掛けの椅子を作っています。座り心地はもちろん、デザイン性や手触り感にもこだわりぬいており、背もたれやアームの曲線が特徴的な椅子は「ヘラ」と名付けました。上から見ると肘かけ部分が料理道具のヘラに似ているのが一番の理由ですが、女性職人が作っているので女神の名前「ヘラ」も少しかけた命名です。
勤務先の工務店で家を建てたお客様が中心ですが、展示会やオンラインショップなどでも注文を受けて製作しています。木取りから接合・削り・塗装・椅子張りまですべての工程を一人で行っているので、今は納品まで半年くらい時間をいただいています。
【Q.家具職人を目指したきっかけを教えてください。】
祖父と父が大工なのでモノづくりを身近に感じてはいましたが、特に目指すということもなく、大学卒業後はアパレル業界で働いていました。結婚や出産、その後の離婚を経て「人生は一度きりだから、好きなことをやりたい」と思うようになったときに、心の奥から湧いてきたのが「椅子を作りたい」という声でした。以前から椅子のフォルムが好きで、雑誌や本でハンスJ・ウェグナーなど巨匠の椅子を見るのが好きだったからかもしれません。
すぐに職業訓練校に入学し、家具製作コースで1年間学びました。卒業後は神奈川県の家具製造の会社に入社し、芯材と化粧版を組み合わせるフラッシュ家具を作りながら、無垢の木材で椅子を作りたいという気持ちがどんどん大きくなっていきました。
【Q.糸魚川への移住のきっかけを教えてください。】
職人としての技術を磨き、次のステップへ進みたいという思いで、2017年10月に鉋(かんな)削りの技を競う全国コンテストに参加しました。そこで、すごい人がいるなと見ていた人が今の親方です。鉋の薄削りの技はもちろん、糸魚川で天然木材を使ったこだわりの家造りをしているという信念にも圧倒されました。共通の知人を介して話をするうちに、親方が「自分が建てる家に合う家具も作りたいのだが、時間がなくて手が回らない。家具職人を探している。」と言っていることを知った私は、すぐに「私、糸魚川に行きます」と伝えました。親方は驚いていましたが、私にためらいはありませんでした。
2カ月後に正式に転職が決まったので、転職に備えて、2018年の1月から3月まで経験のなかった椅子張りの修業を行いました。そして、2018年4月に糸魚川に娘二人と一緒に移住しました。
【Q.糸魚川の印象はどうでしたか?】
移住まで新潟に来たことはありませんでしたが、青森の祖父母の家には毎年行っていたので、地方の暮らしについて特に不安はありませんでした。親方に「糸魚川は海沿いだからそんなに雪は積もらないよ」とも聞いていましたし。
驚いたのは星ですね。移住してほどなく、夜に出掛けようと扉を開けて夜空を見ると、本当に星が降っているかのような美しい夜空で、輝き方がすごすぎて思わず「ワッ!」と声をあげました。ネオンや余計な灯りがない分、驚くほどの星が見える――都会では味わえない光景です。
糸魚川は海や里山も近く、自然がいっぱいで、子どもたちは喜んでいます。特に毎日でも海に行けるのがうれしそうです。私自身も、暑い日には昼休みに海に入ってクールダウンし、そのまま午後の仕事に戻ることもあります(笑)。大人にとっても自然を感じることができる心地よい環境だと思っています。
【Q.生活面はいかがでしょう?】
車は必要ですが、スーパーやドラッグストアは揃っているので生活に不便はありません。魚は新鮮で種類も多く、さすが日本海!という感じですね。
家は、糸魚川市のUIターン促進家賃補助制度を利用してアパートを借りました。会社まではすぐですが、子どもたちの小学校へは片道約45分。ちゃんと歩けるかなと心配もしたのですが、二人一緒の登下校なので、楽しそうに通っています。近所の人たちが何かと心配してくれ、子どもたちをいつも見守ってくれるのも都会とは一味違う地方の良さ。安心して子育てができますね。
【Q.これからの抱負を教えてください。】
まず、私自身の作品のレパートリーをもっと広げることです。椅子やテーブルの種類を増やし、ソファーなども手掛けていきたいと思っています。そして、これから家具職人の弟子をどんどん増やし、ラインナップを充実させていきたいです。
実は今、親方と家具部門を独立させてはどうかと話し合っているところです。糸魚川のブナやホオの木、杉といった木材を使った家具を作って全国へ発信しつつ、その家具に合う雑貨も提案していけたらと思いをはせています。私たちを受け入れてくれた糸魚川と親方の役に立てたらうれしいです。
椅子を作り始めるときには、頭の中に「完成した姿」があります。その姿を思いながら、木を削って削って、削り続けて、形になってきたら何種類もの鉋で曲線を整えていく――流れるようなラインで、人の体に添う椅子を一つでも多く作っていくこと、それが私の目標です。
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