2020.12.03 掲載
株式会社HOME away from HOME Niigata
井比晃さん
十日町市
\井比さんってこんなひと/
◎出身など 1984年柏崎市生まれ
◎経歴 新潟工科大学(柏崎市)→営業職(長岡市、新潟市)→地域おこし協力隊(十日町市)→起業(十日町市)
◎家族構成 妻
◎にいがた暮らしのおすすめポイント
ひとつに決められないくらい沢山ありますが、十日町で暮らしていて感じるのは人の魅力。たくましく生きる人たちが身近にいることで、私も力をもらっています。
柏崎市出身の井比さんは新潟工科大学卒業後、「人と接する仕事に就きたい」と自動車メーカーに営業職として入社。しかし、2〜3年経つとお客さんの声を製品に反映できないことにもどかしさを感じるようになりました。「仕事に違和感を持ったときに初めて自分が本当にやりたいことを考えるようになりました。ただ、『人と相談しながら何かをつくる仕事がしたい』と思いつきはしたものの、具体的に何をやるかまでは見つけられなかった。そのため、様々なお客さんと関われる広告代理店に転職しました」。配属先は結婚情報誌の営業職だったものの、元々は求人や自動車、学習領域など幅広い業界に事業を展開している企業だったこともあり、多様な業界の視点を取り入れることができたそうです。また、独立志向が強く、熱量が高い同僚と働けたことで、少しずつ起業への意欲が高まっていきました。
営業エリアは、十日町・魚沼、上越など。これらの地域は若者の流出が激しく、ブライダル業界のマーケットも萎んでいる状態でした。営業活動を続けていくと、若者が減っていることを業界の将来性という観点だけでなく、地域全体の課題だと感じるようになりました。そこで市役所やNPO法人などブライダル業界以外の団体へ出向き、若者が増える地域にするにはどうしたらいいか、何ができるのかなどの話を聞いて回ることに。そのとき、十日町市で地域を盛り上げようと活動する人たちと出会ったのです。「十日町の人との交流が増える中で、ただの広告営業だった自分のことも受け入れてくれる温かさ、人口減少や様々な課題に対しても前向きに立ち向かう姿勢に強く惹かれました。次第にここで暮らしたい、この人たちと一緒に何か活動したいと思うようになりました」。そんな時に、地域おこし協力隊の制度を知って応募。2014年、着任と同時に十日町市に移住しました。
まずは地域に顔を出して名前を覚えてもらうところからスタート。そこで企業と集落の違いに衝撃を受けたといいます。「企業では決まった目標を達成するために全員で行動しますが、集落の場合はそもそも目標が多様。子育てのしやすさを求める声があれば、農産物のブランド化をしたいといった声もある。活動や目的を絞れないことに最初は戸惑いました」。それでも井比さんはとにかくできることからしようと、野菜の販路拡大、婚活イベントなどいろいろなことに取り組んでいきました。
また、地域の人から譲り受けた古民家の活用も始めます。十日町市に関わる仲間と「これからの十日町市をどうしていきたいか」を話し合い、地域のための活用方法を考案。そして、イベントや事業を生み出せる場が欲しいという意見を取り入れ、コワーキングスペース「みんなの家」として利用することになりました。木こりに木の切り方を教えてもらい、建築士や大工の協力を仰ぎながら約2年かけてDIYで改築し、2017年にオープンすることができました。
地域おこし協力隊として3年間十日町市で活動する中で、田舎で暮らす人の強くしなやかな姿に惹かれるようになりました。十日町市は四季がはっきりしている分、季節ごとに暮らしが変わります。冬には数メートル雪が積もり、雪が溶けて春になると山菜を採り、田植えの準備を始める。夏には野菜を収穫し、秋には稲刈り、そして冬に向けた準備を始める。生きていくために、自然のリズムに合わせて柔軟に動くのが十日町の人たちです。 それは、棚田の管理も同じ。畦道や木など見える範囲は全部誰かが手入れをしたものです。「棚田は機械を入れるのも一苦労で、稲作を続けるのは大変です。『もう高齢で続けられないから』と棚田を手放す人も少なくありません。そうすると『俺が引き継ぐよ』と他の農家が声を上げる。共助っていうんですかね。そういう助け合いの文化がある地域です」。
そんな十日町市の人の魅力をもっと多くの人に感じてほしいと、任期終了後は十日町市に定住し、観光業で起業。「あの棚田で米作りをしている○○さん、そこのあぜ道を草刈りしてくれている○○さん。そんな、地域の人の顔が見える旅をしてもらいたい」と、井比さんならではの観光ツアーを計画していきました。
現在は十日町市の自然や人の温かさに触れられるような棚田トレッキング、田舎料理体験、機織り体験などのツアーを提供しています。お客さんの6〜7割は東京や京都などの一般的な観光地には行き尽くした外国人。田舎ならではの体験や人との交流を求めているので、個別にヒアリングをして申込ツアー以外にもおすすめの体験や宿、移動手段、食事処など詳細な日程を組んで提案しています。「軸にしているのは、地域の人との交流です。棚田を歩いて地元のお父さんと話す。そんな風に旅行者と地域の人とをつなげる役割を果たせればと思います」。
観光業の他にも、コワーキングスペース「みんなの家」や、民泊施設「KOME HOME」も運営。旅行者を泊めて夜は地元の人と一緒にごはんを食べられる場として活用しています。以前思い描いていた「人と相談しながら何かをつくる事業がしたい」という夢を叶えることとなったのです。
しかし、2020年は新型コロナウイルス感染症が広まり、海外からの受け入れは一時的にストップ。十日町市のプロモーションやガイド育成のお手伝いをするなど、受け入れ体制を整える期間となりました。ただ秋頃からは、日本に住む海外出身の方が遊びに来るようになり、少しずつ動きが出てきています。
井比さんが起業して3年。十日町の魅力はここで生きる人の強くしなやかな姿、四季の美しさ、助け合いのコミュニティなど多種多様です。「こうした魅力に共感してくれる仲間を地域内外で増やしていきたい」と、思い描く夢についても教えてくれました。
「今まで僕が感じてきた十日町の魅力に価値を感じてくれる人はもっといるはずです。田舎暮らしに興味を持つ旅行者が十日町の普段の暮らしを聞いたり体験できたりする場を作っていきたいと思っています。それで集落の人に謝礼を払えるような仕組みを作れたらいいですよね。お客さんや集落の人たち、僕らで小さなwin-winの関係を作ってければと思っています。その上で十日町の魅力を全国・世界に発信して、そこに価値を感じる人を連れてくることで、地域に恩返しできたら嬉しいですね」。
そのためにまずは地域で受け入れてくれる協力者と、田舎暮らしに価値を感じる旅行客を増やすところから。井比さんのビジネス、仲間づくりはまだ始まったばかりです。
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