2014.11.26 掲載
vol3
合同会社 直送計画 代表
谷 俊介さん
新潟市在住
vol3
東京都出身。大学在籍時からITベンチャー企業に勤務。2011年、妻の実家のある新潟市に、高校からの友人や、IT企業の後輩らと共にIターン。独自の視点で、新潟の魅力的な商品を県内外に紹介するショッピングサイト「新潟直送計画」の運営を行っている。
2001年の4月に新潟に移住し、2011年11月から私達は『新潟直送計画』をスタートしました。これまで通販分野での経験は全くなかった上、技術的にも未熟だったこともあり、出店店舗の方々に迷惑をかけないように、相当な準備期間を取ってのサイトOPENとなりました。
新潟直送計画は、東京から移住した私らが、「これはすごい!」と思った新潟の逸品を、独自の取材内容でご紹介する、「生産者直送」のお取り寄せ通販・ギフトサイトです。なぜ、私がこれを事業化しようと思ったのか。それを少しお話したいと思います。
<豊かな新潟。そこには、美味しいものを作る生産者や職人(つくり手の方々)がたくさんいる。>
海がある。山がある。広大で肥沃な土壌と、豊富な水源があり、はっきりとした四季がある。豊かな土地です。食べ物がとにかく美味しい。「うまさぎっしり新潟」という観光キャッチコピーを見たことがありませんか?東京に居るころから、駅などで頻繁に目にしていましたが、新潟に縁の無い人はあまり印象に残っていないでしょうか。
ずばり、間違いないと思います。うまさ、ぎっしりです。正直にいうと、新潟に来るまで「米しかないと思ってた。」というのが本当のところです。美味しいものはたくさんあるのに、全国的にはまだまだ知られていない、ということを身を持って体感しました。新潟で初めて、朝採りの枝豆(茶豆)を食べた時には、冷凍物とは別物の甘み・香りに本当に感動しました。ただ、新潟の人からすると、その枝豆の味が「当たり前」であって、特段注目するようなことはないんだろうな、というギャップも感じました。
しっかり良いものを作っていれば必ず評価される。
新潟県人は、寡黙で昔気質ながら、勤勉で粘り強く、黙々と仕事をする真面目なタイプが多いようです。人前に出て、目立つことをするのを嫌う方が多いようです。
そのため、新潟の人にお話を聞くと、決まって、『新潟の人は素晴らしい商品を作るのに、売るのが苦手なんだよ。』という話を聞きます。もう亡くなりましたが、私の祖父も新潟出身です。私の祖父は、80歳手前で亡くなる直前まで、東京で金属加工の職人として一人黙々と朝から夜遅くまで仕事をしていました。ゴツゴツした職人ならではの太く、大きな手は、冬になるとひび割れて痛々しく、それでも愚痴一つこぼさず誇りを持って仕事をしているように見えました。
そんな職人気質な祖父も非常に口下手で、ビジネスの側面ではかなり苦労をしてきたようです。私が独立するという話をした時に、祖父はこう言いました。
『無理な注文でも引き受けて、真面目に頑張って良いものを納品すれば、古くからの付き合いで仕事が舞い込んでくるものだよ。俺はそうやってきたから、この年でも仕事がもらえるんだ。真面目にやってれば、必ず結果はついてくるんだよ。』
非常に重みがある言葉でした。そして、まさしく今それが、新潟県民の気質がよく出ているなぁと思います。とにかく、しっかり良いものを作っていれば必ず評価される。という前提があり、営業面に力を入れることをしないようです。祖父もずっと電話とFAXのみで注文を取っていましたが、新潟も未だにそういうお店は多いです。
地方の人口減少が叫ばれる中、全国規模での販路拡大を求め、ホームページを制作会社に依頼し、運営しているお店はたくさんあります。ただ、私達自身、WEBサイト制作を事業として行っていますが、正直、新潟の多くの農家・生産者にとっては、「ホームページの制作、ネットショップの運営」が、販路拡大のベストな選択ではない。とも思っています。
ネットショップの運営は非常に手間と、コストが掛かります。制作時の初期費用だけ見ても、低価格な食品の通販で元を取るには厳しい金額になってしまうことが多いです。かと言って、ホームページは「作って終わり」では売れません。集客しなければなりません。広告費を使った宣伝や、ソーシャルメディアでマメに情報発信するなど、サイトへの集客が必要です。
さらに、サイト自体の継続的な更新作業・ブラッシュアップによって、購入を喚起するコンテンツ作成が必要です。写真撮影も、ライティングもしなければいけません。注文を受ければお客様とのやりとりが発生し、電話・メール対応、入金状況の管理、配送管理など、膨大な手間がかかります。
ある程度規模のある会社であれば、担当をつけて運営を行うこともできると思いますが、個人の生産者が行おうと思っても、慣れないネットショップ運営に忙殺される、もしくは、作っただけで終わってしまうことは目に見えています。実際、ネット販売に乗り出した多くの方々が、慣れないネットショップ運営に忙殺され、それでも採算が合わず頭を抱えています。 また、そういった現状から、ネット販売への参入をためらっている方が多く存在します。私自身、祖父のためにホームページを作ることはしませんでした。祖父自身に、その運営が行えないと思ったからです。
「素晴らしい商品を作るのに、売るのが苦手」。新潟に来て何度も何度も聞いた言葉ですが、そんなのは、よくよく考えれば当たり前のことなんです。特に、ネット販売や、WEBを使った情報発信は、「つくり手」の本来の業務ではないはずだと思います。
<時間をかけて、素晴らしい商品を作る。たゆまぬ努力で、商品の品質を維持、向上していく。>
それがつくり手の本来の仕事であり、そういった生産者に代わって、商品を全国に販売していく仕組みや、情報発信の担い手が新潟に少ないことが問題なのだと思います。新潟出身の職人だった祖父を見てきた私にはそう思えました。
その想いが動機となり、「新潟直送計画」を作りました。写真撮影、現地取材から、商品ページの作成、編集、在庫の変動などに伴う面倒な更新作業は全て代行し、配送管理や、お客様との連絡の一切を引き受け、これまでネット販売に踏み出せなかった新潟の生産者達が、低コストかつ手軽に、商品を販売することができるような仕組みを作りました。
新潟の多くの生産者達が、手軽にネット販売に踏み出せる仕組みが定着することで、これまでにない規模感で、新潟の地産商品を取扱うオンラインショッピングモールに成長し、県全体として、新潟の「食」のブランド化を図る中で、インターネットからの新たなアプローチによって、相乗効果が期待できるのではないかと考えています。
県外出身者の私達の目線で、新潟名物や特産品を全国に情報を発信していく中で、「新潟の人にも改めて、もっと新潟の物に注目してもらいたい」と感じています。
新潟在住の方、新潟出身者が、たとえば贈り物をする時に、自然と使ってもらえたら。それによって、新潟の豊かな食文化や、職人たちの素晴らしい技術が、陽の目を見る。全国に波及していく。
WEBサービスは形がありません。世界中で次々と新たなサービスが生まれ、そして消えています。人々の生活に密接に結びついて初めて、その形の無いサービスが、長期にわたって利用されるものになるはずだと考えています。
そんなサービスとしてこの土地に定着することが、私達のサービスが生き残る唯一の道なのかもしれません。
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