2024.01.24 掲載
まつえんどん工房 パン職人
冨所 茂子さん
南魚沼市(旧大和町)出身。高校卒業後、東京の専門学校に進学。ベーカリーに勤務しパン作りを身につける。2018年にUターンし、農家が営むパン工房「まつえんどん」で、地元の米や水を使ったこだわりの玄米ベーグルなどを焼き上げる。趣味は山登り。母と二人暮らし。
【Q. パン職人としてのキャリアについて教えてください。】
目指したというよりも、偶然の流れなんです。朝早くから午後までの仕事なら子育てと両立しやすいと思ってベーカリーで働き始めたのがスタートです。当時住んでいた湘南で勤めていた店は首都圏のチェーン店で、各店舗で仕込みから焼成までするのが特徴でした。サンドイッチ作りから始めて、徐々に作れるパンの種類が増え、パン作りはおもしろいと思うようになりました。
パン作りは力仕事で、ザ・職人の世界。50キロの小麦粉の袋を持つし、大型オーブンの近くにいるから火傷もたびたび。それでも、もともとモノ作りが好きなので夢中になっていました。
【Q. その後にUターンされたのですね。】
体調を崩したこともあって、環境を変えようと高校生の子どもと一緒にUターンしました。2018年のことです。帰ってきて気づいたのは、故郷の環境や食べ物、人はこんなに良かったっけ、ということです。米も野菜も素材の味がしっかりしているから、調味料がいらないくらい。それに誰が作っているかがわかるから安全。「いいものはおいしい」ということを身をもって感じました。
南魚沼では人と人の距離が近く、何も言わなくても手を貸してくれたり、何かと声をかけてくれたり、助け合う環境ができています。高校生の頃はおせっかいだなと感じていたのですが、暮らしていくには実はそれが大事なこと。当初は、落ち着いたら東京に戻るつもりでしたが、そのまま南魚沼に住むことを決めました。
【Q. 仕事はどのように探しましたか?】
南魚沼に戻ってパンの仕事が続けられるとは思っていなかったのですが、偶然、パン職人の募集があったんです。代々続く農家が自家栽培の玄米で玄米ベーグルをつくるためにパン工房を立ち上げ、専門職人を迎えようとしていたんです。ラッキーでした。
それまで総菜パンからハード系パンまで様々なものを作ってきましたが、まつえんどんの玄米ベーグルの製法には驚きました。炊いた玄米を入れるなんて考えられないし、卵やバター、ミルクを入れないのも初めて。本当に膨らむのか、おいしいのか疑問だらけでした。でも、焼き上げてみると、ふっくらもちもちしているし、噛めば噛むほどおいしくてびっくり。世界が広がりました。
【Q. 玄米がおいしさの秘密なんですね】
実は秘密はもうひとつあります。水です。ここで使っているのは苗場山系の天然水なのですが、ミネラルが豊富な超軟水で、パンがしっとりと仕上がるんです。パン作りには水も大事な要素。湘南でパンを焼いていた時に、同じレシピでも違う店舗で作ると微妙に味が変わるのは、水が違うからだと実感してはいましたが、南魚沼にきて「これほどか」と驚きました。
【Q. 現在の仕事内容を教えてください。】
子どもが独立したので、今は実家に戻って母と暮らしながらパン工房に通い、玄米ベーグルの製造、新しく開発した魚沼名水パンの製造を担当しています。魚沼名水パンとは、苗場山系の天然水をはじめ、小麦粉、有機豆乳、天然酵母などの素材はすべてこだわりの日本産。卵や乳製品、食品添加物を使っていないので、アレルギーのある方も安心して食べていただけます。もちろん、味も自信あり、です。
【Q. 今後の目標を教えてください。】
アレルギーだから、ビーガンだからとおいしさをあきらめるのではなく、「食べて安心」と「食べておいしい」を両立させていきたいです。卵・乳製品アレルギーだから選ぶのではなく、パン好きの方においしいから選んでいただけるパンでなくては、と思っています。また、今はすべての商品を冷凍で流通させていますが、ゆくゆくは手軽に手に取っていただけるような販売方法もできれば、と、オーナーとも話しています。
【Q. Uターンを考えている方にメッセージをお願いします。】
高校生や若い頃のものの見方は絶対ではありません。年齢だけではなく、いろいろな経験を積んでいくと考え方は変わりますし、地域や時代も変わります。だから、「地方だから」と決めつけないで地元を見てみることは大切だと思います。
自分の好みも変わるかもしれません。私は若い頃はサーフィンが好きで「山なんて」と思っていましたが、Uターンをしてから山登りを始めました。山は四季の変化がくっきり、はっきりとわかって、眺めているだけでも面白いし、登っていくと高さによって風景がまた違うと気づいたからです。発見はきっとあります。
巻機山は新潟県と群馬県にまたがる、標高2000mほどの山です。登山口から頂上までの標高差が1500mと、登りでは厳しいところもありますが、滝や岩などの見どころもたくさん。高山植物も季節ごとに豊富です。頂上付近には視界が開ける場所があり、そこからの眺めは鳥肌が立つくらい素晴らしいです。
一番好きなのは、紅葉シーズンです。年によって違いがありますが、10月中旬には登っていくにつれて色が濃くなり、頂上付近は真っ赤。登りながら、彩りの変化が楽しめます。そのあとに続く雪のシーズンも、見渡す限り真っ白で、静かでいいですよ、同じ山が、季節や時間で変わるので、何回登ってもそのたびに新鮮です。
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