リモートワークorオフィスに出社。社員が選んだ選択とは?
―― IT企業では、リモートワークしている人も多いでしょうか?
フラー渋谷:働く場所はリモートでもオフィスでも好きなほうを選んでもらっていますが、スタッフはほとんどが出社しています。やっぱり集まらないとコミュニケーションを取りづらいし、仲間同士の信頼関係が生まれないんですよね。
ユニークワン立川:基本的に緊急時以外はリモートワークを推奨していません。異なる役割の人がチームを組んでプロジェクトを動かすので、すぐに話せる距離にいたほうが仕事しやすい。あと、モニターを並べてデュアルディスプレイでの業務が普通なんですよ。緊急事態宣言の時に1ヶ月リモートワークにしたんですが、こたつにディスプレイを置いている社員がいて、さすがにそれは無理があるなと思いました(笑)。結局、近所に住んでいるスタッフが多いので「歩いて数分なら出社したほうがいい」といった話になりました。
クーネルワーク谷:うちも緊急時や、特別な事情で出社できない場合以外は、リモートワークにはしていません。新型コロナウィルスが流行し始めた時期にリモート化を進めましたが、家族がいる人は家で仕事をすることが大変だったようですし、新卒で採用した若い社員も多く仕事経験が少ない中でリモートは難しく、喜んだ人があまりいませんでした。現在はみんな会社に出社しています。
通勤時間カットでストレス減、家賃が安い分オフィスを充実
クーネルワーク谷:最近は地方でも自動車を持っていない若い人も増えています。うちは会社の徒歩圏内に住んでいる社員が多いです。職住が近ければ新潟でも車なしでも生活できます。
ユニークワン立川:人生において通勤時間って無駄だと思う。通勤時間が減れば、仕事もプライベートもゆとりができます。ユニークワンも会社の徒歩圏内に住んでいる社員が多いです。
フラー渋谷:通勤時間は大切ですよね。それと、ITってどこでも仕事をできるからこそ、社員が出社したくなるようなオフィスを意識しています。最近、「仕事は家で、遊びは会社で」っていうキャッチコピーを作りました。それで、オフィスにこたつやテレビゲームを置いたりしました。職場が楽しい場所であってほしいと思っています。
ユニークワン立川:新潟はオフィスの家賃も安いので設備にお金をかけられる。椅子はエルゴヒューマン、ディスプレイもこだわったものを社員に支給しています。
8時始業。朝残業にインセンティブ。IT企業の意外な取り組み
―― ちなみにユニークワンさんは、出社時間が早いですよね?何か理由があるんでしょうか?
ユニークワン立川:うちはIT企業だけど朝型です。僕は農家出身なんですが、農家の朝は早く、暗くなると農作業できないから仕事は終わり。夕食の食卓にはいつも親父がいるんです。なので、夜に仕事するのも、夕食の時に家族が揃わないことにも違和感があって。就業時間は8〜17時で、朝残業制度もあります。
―― 朝に残業ですか?
ユニークワン立川:社員も夕飯は家族みんなで食べたほうがいいと思っているので、夜遅くの残業は禁止に。朝残業をする場合は、普通の残業手当よりも手当を上乗せして、朝仕事をしてもらえるような動機づけをしています。こう見えて僕は毎日5時起きで仕事していますよ。
フラー渋谷:え、5時!? 僕、ユニークワンさんでは働けないや(笑)
―― 社内のコミュニケーションや、社内交流など工夫されたりしていますか?
ユニークワン立川:仕事中は事務所にいるのに、チャットでの会話が多いかも(笑)
クーネルワーク谷:うちも、仕事中は静か。
フラー渋谷:うちはうるさいな(笑)スタッフでよくご飯食べに行ったり、仲がいいですよ。やっぱり一緒に働く仲間がいることが仕事のモチベーションになります。
クーネルワーク谷:ウイルス禍以前は、月1回くらい飲み会をしていました。創業時はよく会社で飲んだりゲームしたりしていましたが、今はドライと言うか、みんなスパッと帰るようになりました。あんまりプライベートには干渉しないで、それぞれが自立しているという雰囲気です。
ユニークワン立川:うちは飲み会はやめました。飲みニケーション自体は悪くないと思うけれど、子育て中の人はなかなか参加できない。そうすると、飲み会に出る人、出ない人でコミュニケーションのギャップが生まれて、業務にも影響してしまう。それと、ユニークワンは20代の課長や、40代の部下とかもいるので、飲み会をすると上司部下の関係性が崩れてしまうと考えています。
今後、新潟のIT企業も東京の大手企業との人材の取り合いになる
―― 優秀な人材を新潟で獲得するために意識していることを教えて下さい。
クーネルワーク谷:新潟の若い人たちにとって『憧れる会社』でなければいけないなと常に意識しています。銀行に内定もらったけど、うちに来るか悩んでいるって話も聞いたりします。いざ地方ベンチャーで働くとなると、親御さんが心配するケースも多いので、認知度や安心感につなげようとCMを打ったり、僕がテレビ番組にコメンテーターとして出演したりというのを意識的にしています。
フラー渋谷:当社の人材獲得の競争相手は、ヤフーやメルカリなどの有名企業です。その中で、待遇面や福利厚生はもちろん大切だけれども、それよりも働く場所やライフスタイルを含めた総合的なQOLを大切にしています。
クーネルワーク谷:お二人にお聞きしたいんですけど、今は東京の会社に所属しながらもリモートワークで新潟でも働けるじゃないですか。そうなるとうちのような地方IT企業にとって採用が厳しくなると感じているんですが。
ユニークワン立川:そうそう、今後は大手IT企業のリモートワークと、採用市場でめちゃくちゃバッティングしますよね。新潟の企業も待遇はもちろん、ビジョンでも上場企業と戦わなきゃいけなくなると思います。でも僕は、大手企業で働いている人がリモートワークで新潟に来るようになれば、優秀な人材を口説くチャンスが増えるってプラスに捉えていますよ。
フラー渋谷:この前、新潟に移住してリモートワークで働いている人と会ったら「一人で仕事するのは寂しい」って言っていました。やっぱり一緒に働く仲間がいたほうが楽しく働けるので、オフィスというコミュニティがあるという点は強いと思います。
あとは、地域に貢献できている実感も大切だと思っています。実際、フラーではアルビレックス新潟のスポンサーになったり、長岡花火のアプリを作ったり、新潟の企業とパートナーシップを結んだりしています。東京の上場企業がアルビのスポンサーにはならないじゃないですか!自分たちの手で新潟を良くできているという手応えは、すごく強いモチベーションになります。
新潟の経済成長にまっすぐに向き合いたい(クーネルワーク)
―― 最後に、新潟を拠点とする企業として果たしていきたい役割や、目指している方向などを教えて下さい。
クーネルワーク谷:僕は会社として新潟の経済成長にまっすぐ向き合いたいと思っています。『新潟直送計画』で新潟の産品の売上を拡大するのはわかりやすい貢献ですし、使命感を持ちやすいです。
今はモノをつくる意味が問われている時代。昔はお米を作っている人たちも「自分たちの米が日本を支えている」という意識があったはずだけど、今はそこら中にブランド米があって、米が余っている。そんな世の中で、ものづくりをするモチベーションをどう保つかが課題な気がします。でも、インターネットで消費者と繋がることで「ありがとう」「あなたの米を子供たちがたくさん食べたよ」という声を直接聞くことができる。それが、生産者にとっては自分の使命や誇りになるはずです。そんな機会をもっと増やしていきたいです。
クーネルワークの使命は、オール新潟のフィールドをつくることだと思っています。例えば「にいがた酒の陣」は県内の酒蔵が集まって、あれだけの集客力を持つコンテンツになっています。全国規模で競争力を持つためには、まとまって大きな場をつくって闘うことが必要。掲載数が500店舗、1,000商品を抱える立場として、今後どんなことができるかを考えていきたいです。
新潟発の事業で全国・世界にどんどん進出したい(ユニークワン)
ユニークワン立川:僕は新潟の経済成長に貢献しようという意識は全くないです。たまたま新潟生まれだから新潟で事業をしているのであって、もし他の地域に生まれていたらそこで何かしていたと思います。
やりたいのは、ユニークワンの事業を全国展開、海外展開することです。全国的に知られているIT企業が、実は新潟の会社だったという未来をつくっていきたい。それが結果的に新潟のためにもなると思っています。
―― 事業展開するにあたって、新潟というローカルでビジネスをしているという事は、強みになるのでしょうか?
ユニークワン立川:これからは世の中がグローバルとローカルの二極化すると思っています。ディズニーやNetflixのようなグローバルコンテンツと、にいがた通信・にいがたTVのようなローカルコンテンツ。グローバルコンテンツはどんどんリッチなものになっていく一方で、ローカルはローコストで面白いものを如何にたくさん作れるかがポイントです。
基本的には、クーネルワークの谷さんとやりたいことは近いと思っていて。地域にあるけどネットにない情報を可視化したい。地方に住んでいても、都会に住んでいても、実は人にとって重要な情報って自分の半径5kmのものだったりします。その情報をもっと豊かにしていきたい。そのために新潟で培ってきたノウハウやビジネスモデルは、他の地方でも、都会部でも、海外でも通用すると思っています。
世界のトレンドを見ながら、ローカルの可能性を模索する(フラー)
フラー渋谷:アプリの既存事業については堅調です。引き続き、働く場所を問わずに最先端の仕事ができるという環境をしっかりと整備し、ライフスタイルを含めた働き方の提案をしていきたいと思います。
ただ、IT業界ではテクノロジーの進化とともに中心となるサービスも変わっています。その中で、そろそろアプリ事業の次の軸を探さなくてはと感じています。それが、AIなのか、IoTなのか、ブロックチェーンなのか、まだ分からないし、個人的にしっくり来るものがないですね。ただ、新型コロナウイルス感染症で、ライフスタイルや価値観の大きな変化が起きた。社会の動向も変わると感じています。今はESG投資※など地球環境に良くて、持続可能な事業を選んで投資家がお金を払うようになってきています。その中で可能性の一つが、地方や自然だと思っています。新潟や地方でIT企業がどんなことができるのかを見定めて行きたいと思っています。
同時に、個人としては新潟でも最先端の情報に触れられる機会をつくったり、起業家を育てたり、高専の後輩を支援する活動にも力を入れていきたいですね。
※ESG投資…ESGは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取って作られた造語。近年、この3つの観点から企業を分析して投資先を選択するESG投資が拡大している。
【終わりに】
―― 三社とも新潟で今注目を集めているIT企業ですが、こんなにも個性が違うことに驚きました。また、座談会の中でお三方の人柄や、熱い想いも感じることができました。今日は貴重なお時間を頂きありがとうございました。
今回のニイガタビトではIT起業家座談会をお届けしました。
新潟にはIT業界に限らず、個性あふれる企業がたくさんあります。U・Iターンを考える際には、会社名や規模だけでなく、経営者の想いやビジョン、独自性あるビジネスモデル、働きやすい環境づくりといった部分にまでぜひ目を向けてはいかがでしょうか?