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ニイガタビト

仕事が楽しくて1つに絞れない。上越高田で複業実践中!
- 旅好きと多趣味を活かす地方暮らし -

2019.12.27 掲載

ゲストハウス町の家 オーナー

町 凌介さん

上越市

横浜生まれの大阪育ち。大学進学で上京し、20歳の時にバイクに出会い日本全国を旅する職業旅人。バイク、鉄道、写真、お酒、露天風呂巡り、音楽、楽器(ベース・ギター)、お笑い、映画などが趣味。2015年、早稲田大学大学院社会科学研究科修士課程修了後、広告写真制作会社を半年で退職。2年半後の2018年春に上越市に移住。現在、民泊ゲストハウス「町の家 MACHI’S HOUSE〜高田雁木の旅人宿〜」を経営。ほかに塾講師、FMみょうこう『やわやわ、だすけ。』パーソナリティ(毎週木・金曜17〜19時/生放送)としても活躍しながら、司法書士を目指し勉強中。

\コラムのポイント/
●上越市高田の伝統的な「雁木町家」に移住
 旅好きを活かして民泊ゲストハウスを運営
●仕事が楽しいと初めて思った
 すべてが横一線の「複業」を実践中
●高田に遊びに来ないや!
 歴史ある城下町、自由で新しい活動ができる街

上越市高田との接点と移住までの道のり

 私と上越市高田との出会いは、大学院生の頃、研究の調査で先輩を訪ねたのが始まりです。先輩は別の研究で高田の雁木(がんぎ)町家(積雪時に道路を確保するため家の前に庇をかけた町家造りの家)を借りて住んでいて、そこで寝泊まりするうちに、高田=雁木町家のイメージが自然と定着しました。先輩が人脈を生かして各セクションのキーマンを紹介してくれ、私が上越で研究する素地は自然と出来ていきました。
 趣味でバイク旅をする中で、ゲストハウスやライダーハウスでの旅人同士の交流を楽しく感じるようになったのもこの頃で、いずれどこかで自分も宿泊施設を経営したいという野望はすでにありましたが、当時の移住先の候補としては北海道や九州が有力で、上越市は選択肢にありませんでした。大学院修了後はお金もなかったので、やってみなくちゃわからない精神で、向かないと思いつつも会社員になりました。しかし、働き始めてから9月のシルバーウィークに友人と行ったツーリングがきっかけで、半年で会社を辞めました。能登半島への道中、久しぶりに上越を通過して心に引っ掛かりができたんです。天気がいい日で、信号待ちで吹き抜ける風が心地よくて。都内での毎朝の満員電車や夜遅くまでの残業などで疲弊し始めていて、今から移住の準備をしてもいいんじゃないかと思うようになり気持ちが楽になりました。
 その後、上越を何度か訪ね、大阪の実家で準備期間を過ごし、2018年1月に送られてきた、雁木町家の間取り図と写真を見て、ここに住みたいと思い、上越への移住をほぼ即決しました。

雁木町家の暮らしと移住ライフ

 直感で住み始めた雁木町家はとても落ち着く空間で、民泊ゲストハウスとして機能しています。水まわりや廊下など一部は所有者に改修工事をやってもらい、自分では不要物の処分や家具・照明器具の調達をしただけですが、電球色のノスタルジーな空間はお客さんにも好評です。表側に3つの客間、裏に自室があるのですが、裏に部屋がある雁木町家は珍しく、宿泊客と管理人それぞれのプライバシーを確保し、程よい距離感を保てる点が決め手でした。
 程よい距離感といえば、私の家族や友人がいる大阪や東京から程よい距離にあるという点も、上越に決めた重要なポイントで、逆にこれは九州や北海道への移住を即決できなかった理由の1つでもあります。実際、小・中・高・大といろんな時代の友人が遊びに来てくれます。高田や周辺地域を案内するのが楽しく、この街の良さを感じてくれるのがとても嬉しいです。
 上越の街中は人の多さがちょうど良くて、何より、近所のスーパーで売られている日本海の新鮮な魚が安くて美味くて感激しました。刺身も米も酒も美味い。がっちり胃袋を掴まれています(笑)。ツーリングの際もすぐに海や山に行けて、広域でも上越は各方面へ出やすく地理的に恵まれています。
そして、ご近所付き合いも顔の広い知人を通して紹介してもらったので良好です。特に向かいの豆腐屋さんは、タイミングがいいと手作りの油揚げを揚げたてで売ってくれたり、店の奥で豆乳をご馳走してくれたりとお世話になりっぱなしです。

複業と民泊ゲストハウスの可能性

 法律上、民泊は年間を通して計180日以内の営業しか認められていませんが、観桜会やSAKEまつりといった季節観光・イベント集客がメインの高田では現状十分です。4月や8月は忙しいですが、180日到達にはまだ余裕があります。そういう事情もあり、私は民泊とは別にいくつかの仕事をしています。当初は収入面を補うためのアルバイト感覚で、移住1年目は知人の紹介で屋外の現場仕事と、冬期は除雪作業車の助手の仕事をしました。冬は雪国ならではの仕事に携われて楽しかったですが、夏の現場仕事は体力的・精神的にきつく、民泊だけで生活を賄えないものかと頭を捻りました。ただ、繁忙期とパイが限られているこの街で、無理に頭を捻っても仕方ないという結論に達し、気持ちが楽になりました。これが良かったのかもしれません。
 全て両立させることができる仕事を探しはじめ、今は民泊管理人と塾講師、そしてラジオパーソナリティ、さらに資格試験の勉強と4足のわらじを履いて生活しています。生活スタイルが変わったばかりの今年の4月は民泊の繁忙期と重なり、切り替えが大変でしたが、半年以上が経ち、漸く自分のやりたいことを全部進めながらバランスのとれた生活が送れるようになりつつあります。やってみなくちゃわからない、人生欲張ってみるもんだなと思いました。
 「本業は民泊」と思われがちですが、私は全てが横一線の「複業」だと思っています。ある講演の受け売りですが、私の状態をズバリ言い当てていて気に入っています(笑)。

仕事が楽しいと初めて思った

 民泊は建物が古いため掃除、特に埃対策に一番気を遣います。売りはまず地酒の試飲です。気に入ったものがあれば近くの酒屋で買って帰ってほしくて始めました。私やお客さん同士も含め、試飲からそのまま晩酌が始まったりすることもあり、とても面白いです。
 もう一つは寝袋持参1泊1,500円の旅人プランです。旅の話を聞くのは楽しいし、自分も旅をした経験からこの宿をバイク・自転車乗りの目線で始めたのですが、意外と需要がありました。旅人が別の旅人に紹介してくれるなど、旅人ネットワークで情報が広まる面白さとその可能性も感じています。「旅人宿」らしい、自分が目指している宿の姿に近づいていることが嬉しいです。
 塾講師の仕事は、自身の伝える力を磨きながら高校生たちの頑張りを見ることで自分の資格試験の勉強も捗る相乗効果があり、収入以上にこの仕事をやってよかったなと思います。9割の生徒が県外の大学を志望していますが、一度外の世界を見てくることも大切だと思うので、私自身の話もしたりします。
 ラジオの仕事は、生放送ということもあり最初は緊張しましたが、昔から音楽が好きで、番組中に流す曲を決めていくのが楽しくて、メッセージテーマの設定から番組の構成、リスナーさんとのやりとりなど自身の多方面への興味や趣味も活かせています。リスナーさんから美味しいお店を教えてもらえるので、地元ニュースや近隣地域にも詳しくなります。まだまだ模索中ですが実に楽しいです。現在挑戦中の司法書士資格が取れても、民泊もラジオも塾講師もできれば全部続けたいです。仕事が楽しくて1つに絞れないという、贅沢な悩みです。

同世代、同価値観のゆるいつながり

 私は自分のゲストハウスを会場に、ゆるい繋がりを作るイベントをいくつか開催しています。この原稿を書いている時期も直近に「持ち寄り鍋パ地酒の会」を控えています。上越で繋がった酒好きメンバーと集まる会ですが、宿泊客が飛び入りで参加したり、常連さんが友人を誘って参加してくれたり、今回は小千谷や長岡、県外は富山からも参加予定の方がいます。そのまま2階で寝られるのも売りなのです(笑)。
 ほかには各自が夕食を持ち寄って食卓を囲むだけの「持ち寄りバンゴDASUKE」や、地域の20代が少ないことから「20代の本音を語る会」なども企画しましたが、楽しそうなことをしている空気感って大事だと思うんです。いろんな趣味や興味を通じて、ゆるいサークルのように横に繋がりたい。大がかりになると疲れて継続できなくなるので「ゆるく」って大事なのです。ゆるく繋がる活動は継続していきたいです。
 また、現存する日本最古の現役映画館として注目を集めている高田世界館の上野支配人や、高田界隈の町家のリノベーション事業を手がける打田亮介さんたちとのkinaiyaという活動では、皆で仕事の合間を見つけて空き町家の利活用プロモーションをやっています。突然の取り壊しを防ぐため地域の空き町家情報を集め、空き町家の片付けやDIY、その空間で持ち寄り飲み会・空き家BARを開催するなど、種々のコンテンツを通して一般参加者に町家への関心を広げる活動をしています。長さ日本一の雁木通りは未来に存続させたいです。

とりあえず遊びに来ないや

 移住先に迷っているならば、上越市の高田に遊びにきて、とりあえず何日か過ごしてみてください。一夜干しスルメを天ぷらにした“スル天”はこの街の名物の一つでもありますが、噛めば噛むほど味がするスルメみたいな街です。
 「何か新しいことを始めたい」「自由に活動したい」という方にこの土地はすごく向いているし、楽しいと思います。雁木は車道との緩衝材の役割も果たしていて、子育てにもいい環境です。また、雪よけの庇ですが、雨の日も重宝しますし、夏は日陰を増やし体感温度を下げる効果もあるという先人の知恵です。東京へも新幹線で2時間圏の手軽な異国。田舎のまちなか、実はポテンシャルが高いんですよ。来ないや(来てよ)、高田!

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