2016.09.15 掲載
vol2
陶芸作家
藤田陽子さん
vol2
村上市出身。美術短期大学卒業後、胎内市(旧中条町)の坂爪勝幸先生に師事し、21年間陶芸を学ぶ。2016年2月、生まれ育った村上市瀬波温泉でToi陶房をopen。訪れる観光客や地域の人に作品を見てもらいたいとの思いで、ギャラリーと制作スペースが一体化した開放的な陶房に。陶芸体験を通して土に触れてモノをつくる面白さや自分で作った器で食事を楽しむなど、日常生活で少しでも豊かな気持ちになれる時間を提供したいと考えています。
前回は、幼い頃の焼き物に触れた記憶や美大に通っている時の話を書きました。
今回は、坂爪工房で過ごした日々を書きたいと思います。
21年間学ばせていただいた坂爪先生との出会いは、大学生の頃、友人に誘われて先生の工房見学に行った時までさかのぼります。
桜並木の小道の坂を上ると、雑木林の中に広い工房と大きな穴窯がありました。坂爪先生の窯のサイズは、高さ1m50cm、幅1m80cm、長さ15mもあり、中世の窯を再現して作っています。大学で見ていた窯とは全く違う大きさに驚きましたが、作品のスケールの大きさにも驚きました。
また、先生の作品は、釉薬という陶磁器の表面をガラス質でおおう薬品を使わず高温で焼き、薪の灰が作品に降りかかったものが熱で溶け、釉薬と同じ効果の出る制作スタイルが特徴です。それはビードロや宝石のエメラルドのように綺麗で、当時、私はこの焼き方に憧れていましたが、薪窯で焼成しなければできない現象なので、学校でこの焼き方に挑戦するのは難しいことでした。
2年生の秋、穴窯の窯焚きをすると先生から連絡を頂き、友人と一緒に見学に行きました。私はアシスタントの方と窯焚きをすることになり、薪を運んだり、薪を窯にくべる作業を手伝いました。窯焚きは体力を使いますが、それ以上に楽しかったことを覚えています。熱と炎の色が目に焼き付き、今でも瞼を閉じると初めて体験した窯焚きを思い出します。
初めて体験した薪窯の窯焚きから1か月経った頃、今度は先生から東京で開催する展覧会の案内が届きました。その展覧会では茶碗や、花入れなどの茶陶のほか、陶器でできた阿吽の彫刻が展示してあり、中でもその彫刻に感動しました。一般的な作品は、棚板という窯詰めの時に作品を載せる耐火性のある板のサイズが作品のサイズになり、大きくても45cm×45 cm×45 cmくらいです。しかし、先生の作品は横幅32cm、角の高さ98cmの作品で、焼〆ではとても大きな作品でした。
こんな大きな陶芸作品を初めて見ました。
作品は重量感があり、品格がありました。一般的にガス窯や電気窯で焼成している先生が多い中で、薪窯でなければ作ることのできない自然釉を作り続ける坂爪先生に学びたいと強く思った瞬間でした。
卒業が近づくにつれ、友人とよく進路について話をしていましたが、私のやりたい薪窯はスペースが必要なので、東京では難しいと思いました。東京は、芸術・音楽・本・ファッションなど魅力的な場所ですが、海・川・山といった自然に囲まれ、鳥のさえずり・虫の音・花の香に潮の香と、作品を制作するためのイメージが膨らむ場所は新潟でした。
また、卒業後、陶芸の仕事に専念することができたのは両親の協力がなければ叶わないことだったように思います。
先生との交流が始まってから、たびたび展覧会に招待してくださったり、芸術家などの国内外のご友人が来られた際にいつも紹介してくださったり、そのたびに私は陶芸について新たに知る機会をいただきました。
アメリカの現代陶芸家ピーターヴォーコスの展覧会では、陶板をキャンバスに見立てた絵画のような作品や陶彫作品が展示してあり、それまで陶芸は工芸だと思っていた器のイメージが変わりました。また来日された際、ワークショップで制作風景を見学する機会もありました。その制作風景は土を自由自在に扱い、土を投げて付けてみたり、優しく手で叩いてみたりして、とても楽しそうに作品を作っているのが印象的でした。私は彼から型にはまらない柔軟な発想で、楽しく制作するということを学びました。
また、アメリカのミルトンという抽象画家の方が陶芸をするため、工房に滞在したことがありました。音楽を聞きながら踊ったり、歌ったりして作品を制作していて、その作品には物語がありました。その多くは、恋人や思い出のものや場所を現したオブジェの作品です。私が普段しているイメージの作り方とはまた違い、とても勉強になりました。その他にも、教授や大手企業の役員・会長などたくさんの人との出会いがあり、貴重な経験をしました。
人との出会いはいつも私に影響を与えてくれます。そしてそれは、必ずしも出会う人ばかりではなく、作品であったりもします。
知人が私の作品を見て、ある画家に似ていると言っていました。それがきっかけで、今年の春にその画家の作品展を観に行きました。その一言がなければ、展覧会を観に行くこともなかったかもしれません。
人との出会いが作品に反映しているかは分かりませんが、出会うたびに私の引き出しの数が増えていくように思います。そして成長させてくれたように思います。
次回は工房での仕事や制作のことについて書きたいと思います。
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