2025.03.28 掲載
渡部 善成さん
阿賀町
◎活動開始
2023年6月
◎経歴
・出身:福島県南会津町
・千葉県の大学に進学後、医療系企業への勤務などを経て、愛知県の自動車メーカーに転職。2022年に妻の実家がある新潟市に転居し、プログラミングを習得するため新潟県高度情報社会生活支援センターで学ぶ。同校の校長先生から阿賀町地域おこし協力隊を紹介され、2泊3日の実務体験ができる「おためし地域おこし協力隊」に参加。阿賀町民の人の温かさと豊かな自然と美味しいお米に胸を打たれ、阿賀町地域おこし協力隊(林業)として活動することを決める。旧上川村にある「奥阿賀林業振興会」に座席を置き、そこを拠点として林業全般に携わる。
◎世帯構成
妻と子ども2人の4人暮らし
医療系のIT企業に勤め、営業職として全国を飛び回っていた渡部さん。より安定した働き方を求めて、愛知県の大手自動車メーカーに転職しました。子どもが産まれしばらくすると、夫婦ともども「田舎暮らしがしたい」と考えるようになります。
妻は保育士で、我が子が通う保育園が職場でした。そこで提供される給食は「愛知県らしい濃いめの味付け」と感じていたそう。保育園の味に慣れるのか、子どもは母が作る身体に優しい食事を好まない。「この食文化で子どもを育てていいのだろうかと真剣に悩みました」と当時を振り返ります。
移住の決め手となったのは“食”。余計な調味料や添加物に頼らず、素材が持つ本来の美味しさを子どもに伝えたいと、2022年春に妻の故郷である新潟市へ転居しました。
新潟市へ移った後は、プログラミングを学ぶため、半年間新潟県高度情報社会生活支援センターに通います。プログラミングスキルを生かした仕事と農業のダブルワークを視野に入れていましたが、阿賀町出身の校長から「地域おこし協力隊として活動してみたらどうか」と声をかけられます。
「阿賀町は南会津の実家と新潟を移動するときに通過する町。知ってはいるし、軽い気持ちで『おためし地域おこし協力隊』(※1)に参加しました」
2泊3日の体験期間に「お米がびっくりするくらいに美味くて」驚き、「人の温かさ」に感動。何よりも見渡す限りの豊かな山々に「この木々を活用すれば、何かすごいことができるんじゃないか」と大きな期待を抱いたそう。
※1 おためし地域おこし協力隊…主に2泊3日で地域の方との交流や協力隊が行う実際の業務を体験できる制度。
「阿賀町の美味しいお米やお酒に欠かせないのは水。その水をきれいにしているのは山だろう」と、 選んだ道は阿賀町地域おこし協力隊“林業部門”でした。ただ林業はまったくの未経験。基礎知識を得るため、可能な限り講習に参加し、2023年6月の着任からこれまでに40コース以上を受講。拠点である「奥阿賀林業振興会」をサポートする他、山中での広葉樹伐採や下刈り、炭焼きにクマ剥ぎ被害対策、毎木(まいぼく)調査など多くの実務経験を積んでいます。
現在は休業中の「あすなろ森林公園」にも強い思いがあります。 自身の子ども時代はしばしば裏山を走り回っていましたが、現代の子どもたちにとって自然と触れ合える場所はそれほど多くありません。そこで渡部さんは、木々に触れ、多くの学びを得る“木育”をしたいと考えており、そのための環境として、あすなろ森林公園の再整備を目指しています。
渡部さんは林業を学ぶほどに、「大きな問題を感じるようになった」と言います。ひとつは林業従事者の収入が他業界よりも低い点。「儲かる林業の仕組みを作りたい」と出会ったのは炭でした。
「炭には水を浄化する、脱臭・除湿効果があるなど、さまざまな効能があります。そして炭は炭素の塊。炭を地中に埋めておけば、二酸化炭素の削減につながります。そういった利点を多くの人に伝えて、“炭のある生活”を推奨したいと考えています。丸太の状態で販売しても、十分な収益は得られません。炭に変え、付加価値をつけることで何倍もの利益を生むことができます」
奥阿賀林業振興会の事務局長は渡部さんについて、こう話します。「彼は立派なフォレスター(※2)。林業にニューウェーブを生もうとしています。ニューウェーブが起きるまでの間、ずっと留守を預かっていた森林を大いに活用したいと考えているのでしょうね」
※2 フォレスター…地域の森林・林業関係者と連携しながら森林の整備・保全と林業の成長産業化に向けた取組を牽引する技術者
林業にまつわるもうひとつの課題は、関わる人口が少ないこと。渡部さんは「炭を町の産業にすることで、関係人口を増やせるのではないか」と考えています。いずれは阿賀町で起業し、“炭焼き事業”と“森林整備事業”を立ち上げようと計画中。炭焼き事業は、炭を商品化し、一般家庭の生活に浸透させる取り組み。森林整備事業は、荒れてしまった里山を含め森林をキレイにする事と休業中のあすなろ森林公園の復活です。子どもたちが自然の中で遊べる環境を整え、そこで雇用を生む狙いもあります。
「環境問題に携わっている実感があり、とてもやりがいを感じています。林業は自分のためだけにする仕事ではなく、未来のため、地域のためにある産業です。最終的には地球そのものに深く関わる仕事。『山があるから海があり、山が水をきれいにするから美味しいものが食べられるんだよ』と多くの人に伝えていきたいです」