2024.01.22 掲載
豊田 裕樹さん
小千谷市塩殿
◎活動開始
2021年9月
◎経歴
・出身:大阪府
・もともと農業に興味があり、地方移住を希望。新型コロナの感染拡大がひとつのきっかけとなり、介護の仕事を辞め、小千谷市の地域おこし協力隊に応募。耕作放棄地での山菜生産などの任務のほか、畑を借りて野菜の栽培にも挑戦中。
◎世帯構成
妻と2人の子どもの4人暮らし
子どもが生まれて食の安全や健康を意識するようになった豊田さん。信頼できる素材を探しているうちに「自分で作れば確実だ」と思うようになりました。「折しも当時はコロナ禍で、私は感染患者の受け入れ病院で仕事をしており、妻は下の子どもを妊娠中。不安が募りました」。地方移住をするなら今だと思った豊田さんは、行動を起こします。大阪に近い岡山や島根に移住して、農業を始めようと調査を開始。ところが、選んだのは新潟県小千谷市でした。「地域おこし協力隊の募集地域をスクロールしながら見ていたとき、小千谷市の風景の画像に目が留まりました。理由はうまく言えませんが、ここで暮らしたいなと思ったんです」。協力隊に応募し、面接の2か月後にひとまず一人で赴任しました。その2か月後に、妻と4歳、10カ月の2人の子どもが合流し、家族での小千谷暮らしが始まりました。住まいは大阪から小千谷へ、仕事は介護から農業へと大きく転換。「周囲は驚きましたが、妻は私が前々から農業や地方での暮らしに興味があったことを知っていて、応援してくれてもいました。ただ、小千谷に決めたときは想定外だと驚かれましたね」とにっこり。
魚沼コシヒカリと錦鯉のふるさと・小千谷市は、新潟県中央部の山間にあります。豊田さんにとって初めての豪雪地暮らしでしたが、雪が降りだす前に周囲の人たちが「朝は4時起きで雪かきだ」「雪が降ると車の事故が増えるぞ」と教えてくれ、「思いっきりハードルを上げてくれていたので、それほど驚くことはなかったです」と豊田さん。小千谷の人々の思いやりなのかも、と感じたそうです。「小千谷の人たちは、他人事を自分事としてとらえ、とても親身に接してくれます。うちの屋根の塗装がはがれたとき、10人くらいが集まって直してくれ、『楽しかったわ、ありがとうね』と帰っていくんです。うれしいやら、びっくりするやら。あったかいなと思いました」
協力隊での豊田さんの任務は、耕作放棄地を活用した山菜などの生産・販売促進、デイサービスなど高齢者施設での支援活動、観光や移住のための情報発信です。空き時間には、地域の人から借りた畑で、冬は大根や白菜、小松菜、夏はスイカやトウモロコシ、枝豆などを作っています。もちろん農業は初体験。ここでも周囲の人たちが、畑づくり、栽培方法を手取り足取り教えてくれました。
将来的には農業を仕事にしたいと考える豊田さんは、今、任務と両立させながら、様々な場に参加し、視野を広げています。小千谷の現役と卒業した隊員に声をかけてグループを作り、市内のイベントで自分たちが育てた農作物を販売。この動きを農業活性化につなげたいと考えています。「国や新潟県、小千谷市は、今、地域おこし協力隊の活用促進のための事業を進めているので、サポートしてもらいました」。また、新潟県が開催している、協力隊の新たなサポート人材を育成する「OJT研修」や、「集落サポート人材育成事業の講座」にも参加。「農業をベースに、多様な人々が多様な働き方をする仕組みづくりは、まさに自分が知りたいこと。いろいろな専門家の話を聞け、協力隊以外の人にも出会える場なので、今後に生かしていきたいと思っています」。
卒業後、小千谷で暮らし続けることは決めていますが、地域おこし協力隊のサポートを担うか、現役・卒業の隊員が集まる団体を立ち上げるか、事業者として農業一本に絞るかは考え中。と言いながら、「自分で作っておいしいと思った野菜を、地元の大阪に持っていったら評判がいいんです。八百屋やショッピングセンターでのイベントなど、実は販路も開拓中。手ごたえを感じています」と、農業への意欲を示します。
豊田さんの持論は「協力隊はゴールドパスポート」。協力隊として出かけていけば、どこに行っても受け入れてもらいやすいからだと言います。「市役所に担当部署があるので相談しやすいし、連携や支援への道もスムーズにつながります。地域外でも協力隊といえばたいがい話を聞いてくれます。実際に、私が大阪で野菜の販路を開拓しているときも、飛込みでも話を聞いてもらえました。自ら協力隊に応募して、赴任したという行動力や勇気を買ってくれているのかもしれません」。
もう一つ、大切にしているのは「郷に入れば郷に従え」です。地域はそれぞれなので、まずは自分がその地になじんで信頼関係を築いていくのが大事。「思い通りのことをやらせてもらえないのは、基礎をしっかり作っていないからかも。悩んでいる人には、急ぎすぎないで、と伝えることにしています」。
「家族のことでいえば、子供が小さいうちのほうが移住しやすいでしょうね。小千谷もそうですが、地方には待機児童はいないので共働きもスムーズですよ」。赴任地にしっかりと根を下ろし、地方で農業に関わるという夢に近づきつつある豊田さんの小千谷での日々は続きます。