2025.04.04 掲載
小林 里央さん
新潟市
◎活動開始
2023年7月
◎経歴
・出身:東京都
・大学卒業後、スタートアップ企業に就職。2021年に独立し、個人で事業を始める。2022年に法人を設立。東京都内で空間デザイン事業などを行う会社を経営しながら、新潟市地域おこし協力隊として活動中。
◎世帯構成
一人暮らし
大学時代に、国内外を一人旅することが趣味だった小林さん。さまざまな土地を巡る中で、新潟市を訪れた際にその魅力に惹かれました。特に、歴史とモダンが融合した街の景観や、新鮮な海産物をはじめとする豊かな食文化に心を奪われ、「いつか、ここに住みたい」と強く思うようになったと言います。
その想いを実現するため、小林さんは新潟市の地域おこし協力隊に応募しました。しかし、当初から明確なビジョンがあったわけではありません。「協力隊の活動を通じて具体的に何をしたいのか、最初ははっきりしていませんでした。ただ、新潟市に住むきっかけが欲しかったんです」と振り返ります。そんな純粋な動機から始まった挑戦が、今では地域にとって欠かせない存在へと発展しています。
そして2023年7月、新潟市が全国で初めて導入した「新潟市都市型地域おこし協力隊」(※)の一員として活動を開始。この制度は、従来の地域おこし協力隊とは異なり、本業を持ちながら隊員としての活動を兼務できる点が特徴です。
小林さんは、東京都内で空間デザイン事業や飲食店プロデュースなどを手がける会社を経営する傍ら、月の6割程度を新潟で過ごし、残りの4割を東京都内での業務に充てています。新潟では、決められたルールに則りながら地域おこしの活動に取り組んでいます。この制度は、小林さんのような経営者だけでなく、個人事業を本業とする隊員や、正社員として働きながら参加する隊員など、さまざまな人材に適用されています。
※新潟市では、県外でテレワーカー移住・定住促進を希望する人材を対象に、テレワーク又はワーケーションにおける候補地として新潟市が有力な選択肢となるような活動に取り組みます。
「新潟市都市型地域おこし協力隊」の主なミッションは、新潟市への移住促進、テレワーク移住の推進、そして関係人口の創出です。小林さんは、この目的を達成するための新しい取り組みとして、移住者や移住を検討している人同士が気軽に交流できるオープンチャットを運営し始めました。
このオープンチャットには現在約80名が参加しており、新潟市内の飲食店情報の共有、地域イベントの案内、新たな人脈作りなど、多岐にわたる情報交換の場として活用されています。「地方に移住を考えていても、実際の生活のリアルな声を聞ける機会は意外と少ないものです。そうしたハードルを少しでも下げたいという思いから始めました」と小林さんは語ります。
さらに、移住者だけでなく、新潟市内在住者やテレワーカーともつながれるリアルイベントの企画・運営にも力を入れています。その一例が、東京都内でこれまで5回開催され、約50名が参加した「新潟移住BAR」。
「東京で開催することには、関係人口を増やす狙いがあります」と小林さん。日本酒を片手にカジュアルな雰囲気の中で交流できるこのイベントは、パンフレットやウェブサイトでは伝えきれない新潟の魅力を直接伝える貴重な場となっています。
移住促進を進める上で、移住希望者が直面する課題を解決することも重要な役割のひとつです。そのため、小林さんは「移住スカウトサービス SMOUT」において新潟市エリアの窓口を担当し、移住者の住まい探しのサポートにも取り組んでいます。
「移住を考えている方の中には、仕事はリモートワークでどうにかなるけれど、住まいや生活の基盤をどう整えるかに不安を感じている方が多いです。僕はその仲介役、いわば“コンシェルジュ”のような存在になりたいと考えています」と熱意を語ります。
現在、新潟市での生活に興味を持つ移住希望者に対し、住まいの情報提供や現地案内、さらには地元の方との交流機会の提供など、多角的なサポートを行っています。
新潟での生活が始まってから、小林さんは「地域と深く関わり、新潟市の食文化や歴史について学ぶことができた」と実感する一方で、「新潟市は訪問する目的が見えにくい街なのではないか」とも感じるようになりました。「街に魅力はあるのに、それが十分に発信されていないのが課題」と分析し、「少しでも新潟市のことを知ってもらいたい」と、SNSを活用して自身の新潟での暮らしを発信しています。
「新潟市は政令指定都市でありながら人口流出が進んでいます。僕たちの活動を通じて、この課題の解決に少しでも貢献できたらと思っています」と小林さん。
また、「地方で仕事をする実体験が、移住につながるかもしれない」と考え、活動拠点の空き家へ県外の友人を招き、新潟でのテレワーク体験を提供する試みも行っています。「週末をいつもと違う場所で過ごす『週末移住』という言葉があるように、今の時代は多様な暮らし方、働き方が求められています。地方でのテレワーク体験を通じて、より多くの人に新潟市の魅力を伝え、最終的には移住やテレワーク移住の促進につなげていきたい」と展望を語ります。
小林さんの取り組みは、単なる移住支援にとどまらず、新しいライフスタイルの選択肢を提示するものとして、今後ますます注目されそうです。