2024.12.24 掲載
ローラン・アントワーヌさん
十日町市松之山下川手地区
◎活動開始
2022年12月
◎経歴
・出身:フランス、アヌシー
・フランス南東部アルプスの町・アヌシーで生まれ育ち、リヨンの大学で国際関係を学ぶ。卒業後はロシアやウズベキスタンのフランス大使館で文化担当者として勤務。さらにポルトガルやブラジルで観光業を立ち上げたり、フランスの高校で歴史の教鞭をとるなど、国際的かつ多彩な職務を経て来日。十日町市下川手地区の地域おこし協力隊に着任し、松之山の美人林の活用や、産品の販売、視察の受け入れなど地域の魅力の発掘・発信に励む。
◎世帯構成
十日町で一人暮らし(妻は東京との2拠点暮らし)
着任先の十日町では「アンさん」と親しまれているアントワーヌさんが十日町に興味を持ったきっかけは、なんと縄文土器。仕事でロシアやウズベキスタン、ポルトガル、ブラジル…と世界各国を転々とする中、奥様がブラジルでリオデジャネイロオリンピックに関わった際に、次のオリンピック開催地である日本のプロモーションの一環で縄文土器を展示していたことがきっかけでした。
歴史や文化に強い関心を持つアントワーヌさんは、思い切って日本へ来ることを決意し、まずは東京の語学学校で日本語の勉強を始めました。当初は、都会でのコミュニケーションの希薄さに戸惑いを感じることもあったそうですが、日本料理も学びたいと高円寺の鉄板焼き店で働いた際には「お酒が入ることで、みんなとの距離が縮まり、恥ずかしさもなくなっていくのが良かったです」と感じたそうです。
新型コロナウイルス感染症が世界中を席巻して一旦はフランスに戻ることになり、情勢の落ち着くのを見計らって再来日しましたが、コロナ禍の影響で外食産業は衰退。人間関係が希薄な東京での暮らしにも限界を感じ、田舎の方が暮らしやすく人の役にも立てると思っていたところ、奥様が紹介してくれたのが地域おこし協力隊の制度でした。
アントワーヌさんは、どこの地域に着任するか色々な県を見て回りましたが、一番人の温かさを感じたのが十日町でした。「YouTubeで知り、2週間ずつ市内の集落3か所でお試し移住をして、雪下ろしや山菜採りも体験しました。故郷も雪が多い地域だったので、雪が多い場所が良かったし、何より人の温かさが素晴らしかったんです。飲み会を開いてくれるなど、ここまで歓迎されるとは正直思っていなかったので驚きました。それで、この地域でならやっていけると思い、十日町に決めました。実際、暮らし始めてからも毎週飲み会があるので、健康に気をつけないといけませんね(笑)」。
こうしてアントワーヌさんは2022年12月に十日町市の地域おこし協力隊に着任しました。
十日町市初の外国人地域おこし協力隊となったアントワーヌさんの暮らしは「とても自由で、試してみたいことはなんでも挑戦できます」とのこと。そんな“なんでも挑戦”というアントワーヌさんの活動は、まさに十日町のポテンシャルを最大限引き出し、人生の豊かさと地域の豊かさに直結しています。
その一つが、直売所の管理です。コロナ禍で無人販売所になっていた店頭に自ら立ち、届いたものを販売しています。それだけではなく、商品の仕入れを集落をまたいで行い、地元の農家や地域のお母さんたちのグループを回りつながりを作ったり、フランスから持ってきたアンティークのアートを飾るなど販売所の魅力を向上させています。
また、美人林で伐採したブナで作ったお皿やまな板、キーホルダーなどの商品も開発して販売しています。最近では観光で訪れる国内外のお客さんたちのお土産にもなるなど、少しずつ売り上げにもつながっています。 他にも耕作放棄地での米作りや養蜂、地域への視察の受け入れ、コーラス、月に一回集会所である地域のお母さんたちのお茶会への送迎など、その活動は多岐に渡ります。とても忙しそうですが、奥様も「性格にすごく合っているね」と、アントワーヌさんと活動との相性の良さに太鼓判を押しているそうです。
雪国での生活は除雪の苦労や落雪の危険など厄介な面に目が向きがちですが、アントワーヌさんにとっては「雪は地域の宝物。私にとって一番いい季節が冬です」とのこと。さらに「これからの時代、自給自足や田舎暮らしの方が、都会よりも人と人とのつながりが強く、価値がある生活ができると感じています。災害があっても、収入が少なくても、お金では買えないものがたくさんあって、すごく幸せで豊かな生活を送ることができます。それを今、私は感じています」と続けます。
雪が積もった朝の雰囲気、雪に制限される中で一層強く感じる人の温かさ、雪下ろしの疲れを癒す温泉の気持ち良さ、雪があるからこそ育まれる春に芽吹く山菜。雪があるからこその豊かな生活には確かにお金では得られない価値があると感じています。
外国人として地域おこし協力隊に参加した経験を「素晴らしい学校のよう」と表現するアントワーヌさん。「いろんな世代の日本人とコミュニケーションを取りながら生活や仕事ができること、特に田舎では今まで知らなかった優しさを感じられます。冷蔵庫にはもらった猪肉や熊肉、採れたてのおいしい野菜でいっぱい。本当に素晴らしい経験です。地域おこし協力隊の活動をまだまだ知らない外国人の方も多いと思うし、他の国にはないシステムだと思いますが、すごくいいです」。確かに外国の人にとって基盤がゼロの状態からスタートする海外移住ではなく、地域おこし協力隊は行政とのつながりやミッションが最初からあることで、より日本の暮らしに深く馴染みやすい仕組みと言えるのかもしれません。
「もし都会の生活に退屈を感じているなら、ぜひここに来てみてください。田舎の暮らしが退屈だと言う人もいますが、本当は逆です。たくさんの冒険があって、とても面白いですよ!」と呼びかけています。今後も減農薬での米作りや、美人林のブナを使ったおもちゃ開発、観光業など、十日町での活動に興味が尽きないと話すアントワーヌさんの情熱は止まりません。