2024.02.05 掲載
髙木 桂さん
上越市
(写真右側)
◎活動開始
2021年4月
◎経歴
・出身:北海道
・妊娠をきっかけに、当時暮らしていた東京から地方への移住を決意。生まれてくる子に、こども時代を自然豊かな環境で過ごしてほしいと、2021年上越市に地域おこし協力隊員として移住。地域で計画されていた農村振興に関わる事業全般をミッションとして活動。退任後は、自身で立ち上げた拠点を核に地域の活性化に関わる予定。
◎世帯構成
夫と子どもの3人暮らし
髙木さんの地方移住への道は用意周到でした。自身の妊娠をきっかけに「子どもには幼児期にできるだけたくさんの刺激を五感で感じさせたい」と、自然が身近・雪が降り四季がはっきり・海と山の両方があり・食べものが美味しいことを条件に夫婦で候補地を模索。1年半の間、有楽町の移住相談センターに毎週のように通い、JOINの移住フェアにも参加しました。新潟県に絞って、数か所を実際に訪問。その中で、ふたりの実家のある関東圏からのアクセスの良さも決め手になり、上越市を選択。2021年春、1歳になったお子さんを連れて移住しました。
調べつくしたと思ったのに予想外だったことのひとつは、日照時間の短さ。曇っていても雨や雪が降っていなければ「晴れている」という新潟あるあるの表現に、日本海側特有の気候を実感しました。もうひとつは、ご近所との距離の近さ。「子どもと地域を歩いていると、近所の人がお菓子や野菜を持たせてくれるんです。まるで毎日がハローウィン、予想を超える温かさです」。
地域の情報発信やイベント運営などの活動を行う中で、髙木さんは「もっとこどもたちを巻き込んで地域の活性化を図れないか」と考え始めます。そして、地域で盛んな農業とこどもたちの活動を連携させようと、上越市立清里小学校の総合学習に参加。学校田で収穫した米も販売できるよう「きよさと朝市」の復活をサポートしました。「農業や販売の経験だけでなく、行政や関係団体へ手紙を書いたり、多くの人と協力したりすることで、子どもたちの郷土愛の醸成につながると思ったのです」。
この経験で、子どもたちのために何ができるだろうと髙木さんはさらに考え始めました。「人と人との距離が近いとはいえ、少子化や核家族化が進んで、子どもの居場所が少なくなっているんです。放課後はおじいちゃんおばあちゃんが家にいる子は学童も利用できないので、家に帰ると部屋でゲーム。それではもったいないですよね。フィールドはあるのに活用されていないと感じました」。そこで、髙木さんが目指したのは、家族だけでなく、地域ぐるみで子どもたちを育てていく環境づくりです。今、そのための核となる場所を立ち上げようとしています。
目指しているのは、学習サポートもあるこども食堂、あるいは学童や児童館の拡大版のようなこどもたちの居場所。髙木さんは清里地区で空き家を手に入れて改修し、24年春のスタートに備えています。同時に、農家民宿やサテライトオフィスとしても活用する、複合的な交流施設に仕立てる計画です。子どもだけでなく大人も、住民も、交流を求め集まる人(観光客ではなく)も、移住希望者も、いろいろな人が交差する場所にしたいと考えています。
移住からもうすぐ3年。3歳になった息子さんは外遊びが大好きで、虫や小動物に興味津々。カモシカを見たり、イノシシの話を近所の人から聞いたり、自然をライブで感じて楽しんでいます。移住後の1年間は講師として教えていたご主人は、新潟県の採用試験を経て小学校の教員に。家族もしっかりと新潟に根をおろしています。
新潟で暮らして髙木さんが不思議に思うのは、「新潟の人は米は自慢するのに、たけのこ汁や春一番に味わうとう菜、軒下で干した大根のたくあん漬けなど、ここならではの美味しいものについてはちっとも自慢しないこと」。大事なものを大切に守る、自分の毎日の生活が豊かなら十分だと、あえて言わないのかもしれないと髙木さんは感じています。「だから、ここに来たら知らなかった魅力が絶対に見つかります。たとえば、かんずりは、全国区の長野の七味に引けを取らない和のスパイスなのに、私は新潟に来て初めて知りましたから」。
髙木さんが思う地域おこし協力隊とは、「自分の存在を地域に早く知ってもらえる」そして「たくさんの地域の情報が得られる」制度。それは、初めての場所で暮らしていく上で有益であり、何か活動や事業を始めたいときには支えになります。自分の意見や提案をアピールできる場や機会は決して多くないので、有効に活用すればチャンスが広がり、人と人が繋がって大きな動きが生まれることも。
着任してから気づいたのは、活動費や住居などサポート制度が充実していることでした。「すべてを個人でまかなおうとしたら、大変だと思います。この地域でこういう活動がしたいという思いがある人にはぜひ活用してほしいです」と、経験者だからこそわかる利点をアピール。可能性を秘めた制度だと語っています。