2012.01.20 掲載
2008年にご夫妻で新潟に移住しカーブドッチワイナリーで修業を始め、2011年9月にワイナリー「ドメーヌ・ショオ」をオープンさせた小林英雄さんに移住されたきっかけや新潟でのワインづくりについてお聞きしました。
「両親の仕事の関係でドバイで育ち、世界各国を旅行することが多かったのですが、各国の食文化や酒文化に触れる中でとくにワインに興味を持ちました。もともと興味を持ったモノに対しては、どうしてそうなっているのか分解してみたり、本を読んだりして徹底的に追求するタイプでした。ちょうど大学在学中に本当に驚くほど美味しいワインに出会ったのですが、追求するほど面白くなり、いつか自分で造りたい!と思うようになりました。
大学3年時にはオーストラリアに1年間留学してワイナリーの仕事を手伝わせてもらいました。日本と違い、仕事をする日でも朝からワインを飲み、昼食時にもワインを飲む文化があり、おいしいワインで会話も弾み、場も盛り上がるのでこうした文化が広がってほしいという思いもあります。」
小林さんは以前、世界最大の総合コンサルティング会社にお勤めだったそうですが、なぜその会社を退職されてワインづくりを始めたのかお聞きしました。
「子どものころから海外で生活をしていたので、休みになると両親と世界各国を旅行しました。そんな中でいろいろな国を巡り様々な環境をみてきたことや、4年前にマレーシア旅行中に母親が急死したことなどを受けて、明日何が起きるかわからない、人生一度きりだからやりたいことをやろうと思うようになりました。前職を続けて自己資金を貯めてからとも考えましたが、それを目的に働くのはクライアントファーストにならないし、WIN-WINの関係は築けないと思い、仕事はスパッとやめました。定年して老後にワインを造ろうと思っていたこともありましたが、体力、腕力も必要だし、やりたいことはあまり先延ばしにしない方がいいと思います。」
「こだわりは国産ぶどう100%のワインであること。あとは方向性を見間違えないこと。つまりぶどうのポテンシャルを生かしたワインにすることです。例えば酸味が強い北方のぶどうからは、それを引き出した酸味豊かなワインを醸造するなど。新潟の土地は砂地なので水はけがよく、この土地に向いている品種を育てると非常にクオリティの高いぶどうができますし、カーブドッチやフェルミエのようにすでに良質のワイン造りで結果が出ている地でもあります。
経営者として造るワインとアーティストとして造りたいワインは違います。経営者としての観点を強く出すならば、大手の会社でやってもらえばいいこと。小さなワイナリーでしかやれない個性的なワイン、ちょっと面白いワインを造っていきたいです。ぶどうにまで哲学を押しつけられないのですが、作り手と選び手双方がストーリー性を理解できる、嗜好のムーブメントに走らないワインづくりができたら理想的ですね。」
「高校から海外で暮らしている両親と離れ、日本で全寮制の英語で授業を行う高校に通いました。ディベートの授業が多く、授業でも終わらないと寮に帰ってからもディベートを続けることもありました。英語はツールでしかなく、英語を勉強すること以上に、自分の考えを持つこと、自分で物事を考えることが重要だと思います。
最近は考えない、話さない人が増えているように思います。なぜ考えなくなったのかというと、考える前にインターネットで検索してしまうからだと思います。なぜ話さなくなったのかというと、自分を否定されるのが怖いからだと思います。それなのに人とはつながっていたくて、SNSといったコミュニティは大切にする。会話は人と会ってキャッチボールすることから始まります。社会に出るとモノを売るのも買うのも造るのも人です。偏差値教育よりも人との関わり方を学んでいってほしいです。
また、ワインバルでおいしいワインや料理を通じてコミュニケーションを楽しんでもらうのもいいかと思います。特にワインに関しては、それぞれのワインにそれぞれのストーリーがあります。」
「好きなことや興味のあることに理屈はないといいますが、必ず理由はあります。なぜ好きなのかを理由づけして、ワード化してみてください。そうすると何かあったときでも心が折れにくくなります。就活も同じことがいえるかもしれません。自分の強み、やりたいこと、好きなことをワード化してみてください。壁にぶつかってもそのワードに戻ればいいので、立ち直りが早いですよ。また、人間はやらない理由をダラダラと考える天才です。時には失敗という選択肢はないというくらいの気持ちで臨むことも必要かもしれません。」
「生命学を勉強したくて筑波大学を目指し、博士号を取得しました。科学的根拠やデータによって研究が進められることがほとんどですが、まだそういったデータがない自然なワインづくりをどこまで追求できるか、これからのワイン造りが非常に楽しみです。仕事は自己表現の場で自分を輝かせる場だと思います。」
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