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ニイガタビト

片貝木綿と歩む、自分らしい働き方
- 伝統の技術に新しい風を吹き込み次の世代へ -

2024.12.20 掲載

紺仁染織工房

丸山 猛さん

長岡市出身。ファッション業界で奮闘する先輩に憧れ、スタイリストを目指し、専門学校卒業後に上京。20代半ばでUターン。部品工場を経て、現在は伝統織物「片貝木綿」を製造する企業で工場長を務める。

背伸びする日々から地元での再出発

【Q. 専門学校を卒業し、東京でファッション関連の仕事をしていたそうですね。】

専門学生時代に出会った先輩の影響で、東京で働こうと決めました。その先輩はアパレルブランドの立ち上げを目指してイギリスに留学するなど、華やかなエピソードをたくさん持っている人でした。僕はもともとファッションに興味があったので、先輩のような仕事ができるチャンスは「今しかない」とアパレル業界に飛び込みました。

独り立ちを目指してがむしゃらに働いた3年間は、非常に濃い時間でした。その一方で収入は不安定で、将来が約束されているわけでもありません。「夢の舞台に立てる人はごく一部だけ」という現実に自信をなくして、「このままで大丈夫だろうか」「ずっと東京で暮らしていけるのだろうか」と不安を感じていました。

【Q. いずれはUターンしようと考えていましたか?】

東京でこのままファッションの世界で勝負し続けることも考えましたが「新潟で新しいことに挑戦したい」と思うようになりました。Uターンを意識したきっかけは、仕事中に事故に遭ったことです。心配した両親の希望で、長岡に戻ることにしました。そのときはあくまで「一旦地元に帰る」つもりでしたが、実家の居心地が良く、そのまま暮らすことにしました(笑)。新潟の人は優しいですよね。今の職場は年上が多いからかもしれませんが、面倒見が良い方ばかりで、とても恵まれた環境にいると感じています。

振り返ると、新潟に戻った理由は他にもあったのだろうと思います。東京で働いていた頃は、常に周りの目を気にして無理をしていた部分がありました。どの現場でも僕が一番年下だったので、「大人っぽく見せたい」と背伸びをしていました。そんな毎日にも疲れていたのでしょうね。新潟で暮らすようになり、等身大の自分でいられることの心地よさに気づきました。

伝統ある片貝木綿と共に歩む自分らしい働き方

【Q.新潟ではどのようにお仕事を探しましたか?】

仕事探しは明確なこだわりがなかったのでまずはハローワークに通い、比較的すぐに就職できました。好きなことを仕事にする大変さはもう経験したので、黙々と作業できる製造業が向いていると考え、新潟に戻ってから最初に勤めたのは、長岡市の部品製造の会社です。

その後、現在働いている「片貝木綿」の製造を行っている会社へ転職しました。会社見学会では専務が丁寧に職場を説明してくれたことが印象に残っています。「着物」や「藍染め」という、前職で聞き馴染みのある言葉が出て「あれ、ちょっとおもしろそうだぞ」と関心が高まりました。従業員数がそれほど多くないので、一人ひとりの表情を見てとれるアットホームさがあり、適度に自由で、伸び伸びと働ける風土があります。ルールや社風が自分の希望にぴったりで、「ここなら長く働けそうだな」と思えたことが転職の決め手です。

【Q.現在の仕事内容を教えてください。】

現在製造している「片貝木綿」は、新潟県小千谷市片貝地区で生産される伝統的な木綿織物です。主に浴衣地として知られており、江戸時代から受け継がれ、歴史と技術が詰まった日本の染織文化を代表する存在です。縞模様を基調としたデザインが多く、シンプルでありながらも風情があります。多くは藍染が施されており、深みのある藍色が片貝木綿の魅力を一層引き立てています。現在では、浴衣地だけでなく、洋服やインテリアアイテム、雑貨など、さまざまな製品に活用されています。伝統を守りつつ、現代のライフスタイルにも調和するデザインが人気を集めています。

「片貝木綿」は、デザイン、型紙製作、染色、織りなどいくつもの工程を経てできあがります。僕は、そのうち染色や機械織りの工程などを担当しています。現在は工場長を任せてもらっているので、設備全般の管理も僕の担当です。機械の修理のような大掛かりな仕事もあれば、電球の交換といった細かい仕事もあります。

達成感とやりがいに満ちた、初めての体験

【Q.未経験の業種でどのようにスキルアップしたのでしょう?】

当たり前ですが最初は失敗だらけ。何もできないところからのスタートでした。まずは先輩や上司の仕事ぶりを間近で見させてもらい、それをすぐに実践します。数をこなしてだんだんと自分のスタイルにしていくことが、当社のような伝統技術の習得には必要なのかもしれませんね。染色の技法など試行錯誤の上、何度も成功と失敗を繰り返し少しずつ「やり方がつかめてきた」「できるようになったぞ」という手応えがありました。

【Q.今後の目標を教えてください。】

当社の創業は1751年。270年以上の長い歴史があります。その間、ずっとこの地で存続してきた「片貝木綿」をこの先も守りたい。決して自分たちの代でなくしてはいけないと思っています。諸先輩方からの教えをしっかりと守るのは当たり前で。できれば、上司や先輩から期待されている以上の成果を出したいと思っています。

社内では若手の位置にいるので、上司から「新しいアイディアをどんどん出して欲しい」とリクエストされています。先日、提案したアイディアが採用され、流行りのシルエットを取り入れた新商品が発売されました。それほどたくさん売れたわけではないですが、注文が入る度にすごく嬉しくてたまりませんでした。
「自分の考えたものが形になる」という初めての体験です。達成感とやりがいを強く感じることができました。

Uターンで再発見した、当たり前の幸せ

【Q.新潟での暮らしはいかがですか?】

Uターンして本当によかったと感じています。東京では、仕事が終わる時間が遅かったり、急ごしらえの寝床で仮眠をとったり、不規則な生活を送っていたので、実家で家族と過ごす当たり前の日常に幸せを感じます。帰宅したら食事があって、お風呂にゆっくり浸かれて、自分の部屋がある。「普通の生活」がこれほどありがたいことなのかと今更ながらに感じています。

【Q.新潟へのUターンを考えている方にメッセージをお願いします。】

専門学校を卒業してすぐに上京しました。「地元にはやりたいことがない」「夢を叶えるには東京のような都市部に行くしかない」と思い込んでいたからです。でも新潟に戻ってきて、「なんだ。仕事も、やりたいことも新潟に全部あったじゃん」と気がつきました。きっと学生時代は、若い上に社会経験も未熟で、知らないことが多すぎたんですね。視野が狭かっただけだったと今は思っています。
「帰りたいと思ったら、帰ってくればいい」。それが僕からのメッセージです。

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