2013.03.11 掲載
vol3
小倉壮平さん
vol3
2002年の冬に、武蔵野美術大学の学生として岩室温泉に関わり始めてから9年。現在「新潟市岩室観光施設いわむろや」の館長として、施設の管理運営、地域活動や岩室の観光に関する仕事をしている。
私は大学で建築を学んでいましたが、模型を作って自分だけの世界で考えていることがつまらなくて、もっと外側にある何かに触れたいと思っているような学生でした。そんな学生時代に、突如として岩室温泉との出会いがありました。初めての農村地域体験で、田舎に行くことにはとても憧れがあったので、訪れる度にワクワクしてはしゃいでいたのを思い出します。
岩室温泉で過ごした日々は、人は温かく、季節は移り変わりを体当たりで教えてくれ、想像以上に魅力ある時間でした。ここには、私が経験したことのなかった「暮らし」が息づいており、今までの自分自身の生活や、東京という場所が「当たり前」ではないと初めて知ったのです。岩室温泉は私の好きな場所になり、縁もあってついには住んでしまいました。この選択は、おそらく私の好奇心が背中を押したからでもあると思います。
ここに来てから、野菜ひとつにしても育てる人の顔が見えて、安心して美味しいものを食べてもらおうと気遣っている様子を感じるようになりました。また、野菜を通して季節の流れを感じ、旬の食材の美味しさを知りました。ひとつひとつの食材に背景があり、こだわりがあり…ですが、地元の農家さんはそれを「当たり前」だと言います。当たり前だから、自慢することもない。私達の生活は、このような思いを持つ方々に支えられていたのだと気付きました。この発見は私にとって大きな喜びでした。
私が驚いた「当たり前」は、他にも地域にたくさん落ちていました。そして、外から来た私が喜びに感じることが、この地にとっての観光資源になるのなら、私でも地域の役にたてるのではないかと思うようになりました。
そこから、地域の「したい」を形にするお手伝いを始めました。独りよがりの「したい」にならないように、地域のニーズと照らし合わせ、結果がよくなるように協力しています。この時、一番考えるのは「want(やりたいこと)」「can(できること)」「need(社会的必要性)」が重なるように編集していくことです。社会的必要性とは、今地域に欠けているのは何か、それを補えるものは何か、ということです。そういうことを常に考えるのが私の役割であり、地域づくりという仕事です。一見、大きなこと言っているように思われるかもしれませんが、とても小さなことの積み重ねなので、実際は見えないものです。
例えば、趣味でカメラ撮影をしているサークルに、写真展の機会を提供するとします。そうすればそのサークルも張り合いが出て、活動のエネルギーになります。そこから出来た傑作の写真を観光宣伝に使うことで、外からの誘客という経済的効果を生み出せるかもしれません。このように、人の見えないところで連鎖反応を起こして、地域を元気にするのが私の仕事です。
私はコンサルタントではなく、現場を感じ、地域課題とも向き合いながらたくさんの「当たり前」を掘り起こすことが役目です。ひとつの職場にいながらも、これだけ多岐にわたる仕事に携わることができるのは、本当に楽しいことです。私がここで働く意味も、積み重ねたものがそのうちに教えてくれると信じています。
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