2013.05.28 掲載
vol1
「古本いと本」店主
伊藤かおりさん
vol1
1987年生まれ。新潟県関川村出身。東京の大学で4年間栄養学を学んだ後、Uターン。新発田市の企業に約1年半勤めた後、退職し、2012年7月に新発田市駅前通り商店街の『まちカフェ・りんく』の中に、古本屋『古本いと本(いとぽん)』を開業。現在は古本販売の他にも、「本」を切り口に、人と人の間にコミュニケーションが生まれるようなイベントを企画している。
何気なく手に取った1冊が、自分の人生のターニングポイントになることがあります。
本の主人公や、その本の著者の生き方を垣間見たことで、思わず新しいことを始めたくなったり、勇気をもらう。そんな体験はありませんか?本には人の心を動かしたり、行動を変える力があります。
私は学生時代に手に取った1冊の本・森絵都さんの『カラフル』という作品から、新しいことに挑戦しようという勇気をもらいました。当時、引っ込み思案で目立たないようにするのが習慣だった私が、この1冊に勇気をもらい、「やってみなきゃ分からない」と思うようになったのです。それからは、「自分にはできない」と言う前に、まずはやってみようと行動するようになりました。
偶然出会った1冊が自分の中で化学反応を起こし、考え方が変わって、行動まで変えることがある。自分自身のそんな体験を他の人にも味わってほしい、そんな本に出会える場所にしていきたい、という想いで『古本いと本』をスタートさせました。
古本屋を始めたきっかけのひとつが、新潟市内で開催された「一箱古本市」です。これは、誰でも一箱分の古本を持って来て、自由に売ることができるイベントです。その当時会社員だった私は、一人で30冊ほどの本を持って参加しました。青空の下、一箱分の本を持ち寄った人がズラリと箱を並べ、たくさんの人が行き交う古本市。お客さんが自分の箱をのぞきこんで、手にとって見てくれる。立ち止まってくれたお客さんに話しかけてみると、意外な共通点が見つかり、本を切り口に話が盛り上がる。無表情に本を見ていた人が、ちょっと話しかけてみるとパっと笑顔になる。本が人と人の間にあることで、「他人」だった人が「知り合い」になる瞬間を体験して、「本は一人で読むだけじゃない。誰かと共有することで、何倍も面白くなる!」そう感じたのです。
本は、一人で読むだけではなく、誰かと共有することで面白くなる。そんな体験をもっと気軽にできるようにと開催しているのが、「本の合コン」です。「本」と「合コン」という、対照的な2つを組み合わせたイベント。私自身、もともと読書も合コンも好きだった・・・というのが企画の発端です。「本の合コン」は、流行の婚活イベントと思いきやそうではありません。好きな本を切り口に、年代も職業もバラバラの参加者が語り合い、新しい本や普段関わることのない人と出会えるというものです。参加者にはお気に入りの1冊を持って来てもらい、誰がどの本を持ってきたか分からない状態で、他の参加者の本から気になる1冊を手にとってもらいます。そして、その持ち主とペアトークをするという内容のイベントです。本を間に挟むことで、初対面の人同士でも話が尽きないのです。こんな風に、普段語ることのない人とも、「本」という道具があることで自然とコミュニケーションが生まれるのです。
次回の本の合コンは、6月23日(日)に濁川の再生良家で開催予定です。
就職活動中や会社員時代、「自分はどんな働き方がしたいのだろう?」と非常に悩みました。学生時代、就職活動サイトを見ていても、自分が生き生きと働いている姿は何だかイメージできない。また、実際に働いてみても「このままでいいのだろうか?」という不安が常にありました。今になって思うのは、その不安は「色んな働き方がある」ということを知らなかったためだったと思います。安定していなければいけない、趣味を仕事にしてはいけない、あれはダメ、これは無理。そんな考えで身動きが取れなくなっていました。しかし、世の中には「会社員」や「自営業」、「ニート」という括りだけでは表現できない多様な働き方があって、人それぞれの生き方があります。また、自分らしく仕事をしている人の中には、私が体験したようなある1冊との出逢いや、ある人との出逢いが自分の生き方のターニングポイントになった経験が、少なからずあると思うのです。
そんな想いから2012年からスタートさせたのが、「BOOKトークライブ」という企画です。新潟県内に在住している魅力的な働き方、生き方をしている人をゲストとして呼び、ゲストが経験した本や人との出逢いを語ってもらいます。今までのゲストは、自分発掘本屋『ツルハシブックス』のオーナーや、中古車販売店の経営者、フリースクールを主宰している方など。参加者が自分自身の働き方や生き方をもう一度問い直すきっかけになればと思い、話を聴くだけではなく、参加者同士が語り合う時間も設けています。
古本屋を始めてまだ1年も経っていませんが、新しいことを始める面白さや充実感をたくさん知り、同時に難しさも同じくらい感じました。何か新しいことを始めようとする時、先駆者や成功者はたくさんいるかもしれません。しかし実際は、「その人だから上手くいった」方法であって、自分が同じ方法でやっても上手くいくとは限らないのです。だからこそ、行き当たりばったり、獣道をかきわけていくしか道を切り開く方法はないのかなと感じています。周りの素敵な働き方をしている人たちに励まされ、応援され、刺激を受けながら、これからも「本」を通してたくさんの人の喜ぶ顔を見たいと思っています。
◎『古本いと本』の普段の様子
イベント情報や、古本屋の日常をブログで日々発信しています。
blog: 『メモのすすめ』で検索 http://ameblo.jp/itoponn/
お問い合わせ: itoponn@gmail.com
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