2023.03.06
五泉市
自分の生活を豊かにするための工夫=ライフハックとして新潟にUIターンし、地方だからこそ実現できる暮らし・多様な働き方を楽しむ「にいがたライフハッカーズ」。
今回ご紹介するにいがたライフハッカーは、五泉市にある株式会社ウメダニットで販売広報課の課長を務める新潟市出身五泉市在住の山田 香織さん。
関東の大学卒業後は画廊→大学→芸能プロダクションに勤務し、様々な経験を積んできた山田さん。一見、共通項の見えないようなキャリアの背景には「アートの未来に貢献したい」という一本の太い軸があります。そんな山田さんに、これまでの仕事のことやUターンしたきっかけ、そして夢の実現に向けて企画したアートプロジェクトについてお聞きしました。
山田 香織さん
1984年生まれ。新潟市出身の五泉市在住。大学進学を機に上京。大学では現代美術を専攻し、アートの文化的背景を学ぶ。卒業後は都内の画廊に就職するが、その後はアート業界から離れ、大学職員、大手芸能プロダクションのマネージャー職を経験。現在は地元新潟にUターンし、ニットの産地五泉にある株式会社ウメダニットに就職。同社の販売広報課課長として、自社ブランドの販売強化に従事。プライベートでは、若手アーティストの支援プロジェクト「にいがた AIR」を立ち上げ、地域とアートの価値向上に向け活動している。
えひめ/小川 愛媛
1996年生まれ。神奈川県横浜市出身。2021年9月に新潟県阿賀町の地域おこし協力隊に着任。現在は、温泉と高校寮の横にあるコワーキングスペースとブックカフェの複合施設「風舟(かざふね)」を運営。個人では、ライターやカメラマンとして活動。前職では、都内でSaaS事業の法人営業・カスタマーサクセスの仕事を2年半経験。最近は隔月で日本橋のソーシャルバーにて、1日店長として場をひらく等、新潟と首都圏のプチ2拠点暮らしをお試し中。
えひめ
山田さんのコーディネート、とてもすてきですね!
今日のファッションからもアーティスティックな雰囲気を感じますが、幼いころからアートに興味をお持ちだったとお聞きしました。
山田さん
ありがとうございます。そうですね、特に、絵を描くことが小さいころから好きでした。進路選択でも最初は美大に進もうと思っていたんですが、進路を考えるうちに、自分が描くというよりもアートの文化的背景を学びたいと思うようになり、東京の大学に進学しました。
えひめ
大学時代も、何かアートに関する活動をされていたのですか?
山田さん
大学では現代美術を専攻していたので、そこからすっかり現代美術の虜になってしまって。都内の画廊で無償のインターンをしていました。
アート系の業界って、経験者のみの募集がほとんどで。実務経験を積んでいない人を採用していただけるところはなかなかないのですが、「どうしてもここで働きたいです。働き手を募集していませんか?」とメールで直談判し、入れていただきました(笑)。
えひめ
行動力とまっすぐさが素敵です!その後、インターンを経てそのままその画廊に就職することになったのですよね。
幼いころから興味があったアートに直結するお仕事に就いてみてどうでしたか?
山田さん
そうですね。勉強になりますし、本当におもしろくてやりたい仕事ではあったのですが、関われば関わるほど、日本のアート業界に閉塞感を感じるようになりました。
アートに触れる間口の狭さや敷居の高さもあって、文化庁の調査によると、2020年の世界の美術品市場規模は5.2兆円あるのに対して、日本は1,929億円と、わずか3.7%のシェアに過ぎないんです。(※)
※出所)「日本のアート産業に関する市場調査2021」エートーキョー(株) 、(株)QUICK
えひめ
世界に比べて、日本はそんなにも市場が小さいのですね。
山田さん
はい。日本では世界と比べてアート市場の規模が小さいことで、アーティストの創作活動や生活を支える基盤が欠如していると感じることが多々ありました。
アートに関わるお仕事をしたいという思いに変わりはありませんでしたが、他の業界を経験することで日本のアート業界に足りていないものはなにか、きちんと考えたほうがいいなと思いました。
えひめ
それで、大学職員や芸能プロダクションのマネージャーなど、異業種への転職活動がスタートしたわけですね。
山田さん
そうですね。 周囲の人からしたら、「アートの仕事、あんなにやりたかったんじゃなかったの!?」という感じだったと思います(笑)。
えひめ
続いての転職先は大学の職員とお聞きしました。なぜその選択をされたのでしょうか。
山田さん
芸術家というプレイヤーの育成ももちろん大切ですが、それを観る人たちの育成も同じくらい大事だなと思い、実際の教育現場を見てみたいと思いました。
また、そのころ気になっていたのが、新潟県十日町市・津南町で開催されている「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」などの地域ぐるみのアートプロジェクトです。アートと地域を結びつけながら誰もが気軽に芸術を楽しむことができる環境を作り、それが地域に刺激を与え、活性化に繋がる。こういった取り組みにアートをオープンな世界へと変えてくれる可能性を感じ、同時に地域連携にも興味を持ちました。
大学では嘱託職員として一般事務を行っておりましたが、大学が地域連携に力を入れていたこともあり、地域ぐるみのプロジェクトへの興味からそのような現場も経験させていただきましたね。
えひめ
そのあとは大手芸能プロダクションのマネージャーに転身されたんですよね。これはまた、なぜでしょう。
山田さん
大学という環境はとても居心地がよかったのですが、やはり最終的にはアートに関わる仕事がしたい、そのために色々経験したいという原点に立ち戻って。
私が好きな、大衆にはまだ知られていないような、いわゆる「サブカルチャー」と言われているコンテンツをもう少し日の目が当たるものにするには、逆にメインカルチャーは今どのように作られているのか知る必要があるのかも、と考えました。
メインカルチャーの業界ではどのようなブランディングやプロモーションがされているのか経験できたらおもしろいなと思い、2度目の転職を決意しました。
えひめ
そこでは、所属タレントのブランディングやマネジメント、営業活動などをされていたのですよね。
山田さん
はい。しかしまた3年で転職を……(笑)。その時々の仕事におもしろさを感じてはいるので、そのままその道に進んでもいいかなとは思っているのですが。さすがにそろそろ最終地点にいかないとと思いました。
次の職を考えたとき、大学職員のころから興味があった地域ぐるみのアートプロジェクトに魅力を感じつつも、これまでの経験から「地域の内側からまちづくりに関わりたい」という思いが生まれていることに気付きまして。地域や産業のブランディングに携わるような仕事ができたらと考え始めました。
えひめ
その後、全国でも有数のニットの名産地・五泉市にある株式会社ウメダニットの営業職として、新潟にUターンされたとのことでしたね。
山田さん
はい。当時登録をしていた新潟の転職エージェントからご紹介いただいたことをきっかけに、ウメダニットと出会いました。
初めは、「五泉のニットって名前は聞いたことがあるけれど、詳しいことは全然知らないな」と思い、見学だけのつもりだったんです。しかし、職人技とテクノロジーを駆使した現場に魅力を感じ、そのまま面接をしていただくことに。
そのとき驚いたのが、面接の担当だった現社長と営業課長が、当時30代でまだお若いのに自分たちで自社のオリジナルブランド「WRAPINKNOT」を立ち上げ、自ら発信までされていたこと。ブランド商品の受託製造(OEM)が多くなかなかウメダニットとしてはブランド認知されてこなかったものを、自社ブランドを立ち上げ、広げていく取り組みをされていました。地域の中で、新しい価値を生み出すための挑戦をしている姿勢に強く惹かれ、まさに私が関わりたいことだと思いましたね。
えひめ
ウメダニットさんの取り組みは分かりやすく「アート」というカテゴリーではないかもしれませんが、山田さんがアートに対して感じられている「まだ大衆に知られていないものに光を当てたい」という思いは共通しているように思えます。
入社後のお仕事内容をお教えいただけますか?
山田さん
最初は百貨店に入っているようなブランド商品のOEMの営業として、素材や柄、風合いなど無数にあるバリエーションの中から、お客様のニーズやご要望に合わせたニット製品の企画をご提案するお仕事をしていました。今は販売広報課に所属し、自社商品の販売強化に向けて、オンラインショップの仕組みづくりや販売計画の作成を行っています。
これまでの傾向だと、3年ほどで転職の波が来るのですが、ここに来てからもう7年目になります。きっと社内で転職のような気持ちを味わえているので、こんなにも続いているんですね(笑)。
えひめ
アートへの思いを軸にこれまで様々な職業をご経験されてきた山田さんですが、現在はプライベートでもアートに関する活動に取り組まれているのですよね。
山田さん
はい。最近、芸術家が芸術活動で稼ぐことのできる仕組みとしての「アーティスト・イン・レジデンス(※)」の企画を考えています。芸大・美大等を出ても「芸術家」として生活をしていける若者が非常に少ない現状を変えたくて。
※アーティスト・イン・レジデンス(Artist in Residence、「AIR」)…国内外からアーティストを一定期間招へいして、滞在中の活動を支援する事業です。日本においては1990年代前半からAIRへの関心が高まり、地方自治体やアートNPOがその担い手となって取り組むケースが増えてきています。
出所)日本全国のアーティスト・イン・レジデンス総合サイト「AIR_J」
私が企画した「にいがた AIR」では商店街の空き店舗を利用し、若手現代アーティストに滞在制作のためのアトリエ兼住居を安価で貸し出す予定です。
商店街の1F店舗部分をアトリエとして自由に使ってもらい、2Fに居住するイメージですね。
えひめ
地域でアーティストを支え、アーティストで地域を活性化する。まさに地域ぐるみのアートプロジェクトですね。すてきです。この取り組みで特に重要視しているポイントはどこですか?
山田さん
若手現代アーティストたちが制作に打ち込みながらも収入を得る仕組みづくりです。
たとえば、企業向けサブスクリプション型のレンタルアートや、アートイベントやカルチャー教室の企画運営、そして近年、アート分野でマネタイズの新たなモデルとして注目されている、NFT(※)の活用を検討中です。
※NFT…NFTとは「Non-Fungible Token」の略称で、日本語では「代替不可能なトークン」を意味するものです。従来のデジタルデータは容易にコピーや改ざんができていたため、データそのものに希少価値はありませんでした。しかしNFTは「代替不可能なトークン」のため、唯一無二の価値を持っているという特徴があります。
出所)The Finance
えひめ
「NFT」という言葉は最近耳にすることも増えてきましたね。「収入を得る仕組みづくり」とは具体的にどのような内容なのでしょうか。
山田さん
NFTには、誰が所有してきたかを残せる仕組みがあります。この技術によってデジタル資産に新たな価値が加わりました。これまでデジタル作品には所有者の履歴を残す方法がなかったため、「誰が所有してきたか」に対して価値が付与されてこなかったんです。
そしてこの所有者の履歴が残されたデジタル作品は、売買されるごとに著作者にも報酬が支払われる設定にすることができます。本人が最初に作品を販売したときだけでなく、作品が循環すればするほど利益が発生するような仕組みなんです。
えひめ
なるほど。一回売って終わりではなく、作品が他の人の手に渡っていくことで利益が発生し続けるというのは、画期的な仕組みですね。画廊で働いていたときの課題感に対して、これまでの経験をすべて活かし、チャレンジされている姿がすてきです。
この取り組みは山田さんお一人で考えられたんですか?
山田さん
いえ、ありがたいことに、将来の新潟の経済を担う次世代経営者を対象とした「新潟イノベーションプログラム」へ会社から参加をさせていただきまして。
そこで、これまでの経験ややりたいことを一つ一つ掘り下げ、企画を立ち上げました。
えひめ
そのようなプログラムがあったのですね。得た機会やこれまでの経験を活かし、やりたいことをどんどん実現されていく山田さん、本当にかっこいいです。
えひめ
新潟での暮らしについても質問させてください。
今は都会で暮らしていても、出産・子育て、介護等のことを考えると、「いつかは新潟に帰りたいな」と考える人は一定数いるんじゃないかと思っていて。
しかし、自分の経験を活かせる職場を地方で見つけるフェーズで、つまずく人も多そうだなと感じています。その点、山田さんはどうお考えでしょうか?
山田さん
そうですよね。しかし、全然関係のないようにみえる仕事でも何かしらつながる部分はあると思っています。
職種や条件を限定せず、本質的な自分の価値ややりたいことを軸に仕事を探せば、選択肢も一気に広がるのではないでしょうか。
えひめ
それはとても大事ですね。一見まったく違う仕事のように見えても、ちょっと編集すれば使える知見やスキルはたくさんありますよね。
ちなみに、待遇面で勇気を出せない人も正直多いのではないかと思ってますが、山田さんは実際に東京から新潟へとUターン転職してみて、その部分で感じることがございましたか?
山田さん
実際、給与水準が下がるというのはある程度仕方のないことだと思っています。
かといって生活水準が下がったという感覚は特にありません。新潟では車で出勤する人が多いため夜の飲み会が減り、その分自炊をする機会が増えたため支出は抑えられています。
東京では仕事に追われる少し生き急いだ暮らしをしていたのですが、今は仕事をする時間も短くなり、自炊や趣味をやる余裕も出てきました。地元スーパーで買った採れたての食材を使って自分でごはんをつくるなど、都会とは違う暮らしの楽しさを感じながら生活していますね。
えひめ
心身共に健康的な暮らしができる基盤や、食をはじめとした豊かな資源があることは、アート活動にもいい影響を及ぼしそうだなと、勝手ながら想像します。
最後に、山田さんの今後の展望をお聞かせください!
山田さん
「にいがた AIR」の活動などやりたいことはだいぶ見えてきましたが、本業がバタバタとしてしまい昨年はあまり動けなかったので、2023年は仕切り直して動き出せるように準備をしたいと思っています。
この取り組みを成功させ、若手アーティストにとって新潟が「この町に行けば仲間が出来る、評価される、経験値が上がる」という場所になれば、転出超過という地域課題も解決できるのではないかと妄想中です。
同じような思いを持つ方々がいたら、ぜひ一緒に活動できると嬉しいですね。アートの力で、新潟をさらに盛り上げていきましょう!
自らの生活をより豊かにするために、新潟で暮らすことを選んだ「にいがたライフハッカーズ」。そんな彼らの生活を彩る新潟のモノ・コト・ヒトについて、とっておきの「ニイガタライフハック」をお聞きしました。
登山をしてからその山の頂上で、その日の気分で選んだ本を読むのが好きです。五泉市には、1時間くらいで頂上にいけてしまう里山が多いんですよ。
また、周りに誰もいないときは、好きな音楽を爆音で流しながら登山をします。これが、ひとり野外フェスのような気分になって爽快なんです!
こういったことは、登山客の多い人気の山ではなかなかできないですからね。五泉市だからこそできる遊びを、これからも増やしていきたいです。
このページをSNSで共有する