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ニイガタビト

旅館は、地域のプレゼンに最適の場です。

2009.07.24 掲載

株式会社いせん 代表取締役

井口 智裕さん

36歳 湯沢町

 湯沢町で代々旅館業を営む家に生まれる。高校卒業後、「もっと広い世界を見てみたい」とアメリカの大学に留学。経営学を専攻する中で、早く現場で働きたい、学んだことを実践したいという気持ちが強くなる。卒業後、家業の温泉旅館を継ぐ。従来の旅館の常識に縛られないHATAGO(旅籠)というコンセプトのもと、家業だけでなく、地域住民と連携した観光業、地域活性化を目指す。「旅館業は平和産業。世界中に旅籠を作りたい」と、日々奔走している。

県内に就職をしたきっかけ

 家業が温泉旅館で、親ははっきり継いでくれとは言わなかったのですが、無言のプレッシャーみたいなものはありました。でも敷かれたレールの上を歩きたくないという思いと、もっと広い世界を見てみたくて、アメリカ東ワシントン大学に留学しました。
 よく言われるように、アメリカの大学は日本の大学と違い、卒業するのが本当に大変です。毎日、課題やテストがあり、それに合格しないと留年してしまう。当然、テキストも英語で書かれているので、効率的な勉強のやり方を学ばなければ追いついていけなかった。それが今の仕事のやり方にもつながっていますね。
 3年に進級するときに専門科目を選ぶのですが、周囲から「実家が商売をやっているのだから、ビジネスを学んだら」と言われて、経営学を専攻しました。
 これがやってみると実に面白い。会計学やマーケティング、マネジメントについてケース・スタディやコンサルティング、企画書を書いて、毎日プレゼンをします。クラスメイトの半分は社会人で、目的意識が非常に高く、良い刺激を受けました。
 「こういうケースって、日本ではどうなの?」「カンバン方式って何?」と聞かれた時に、上手く答えられず、いかに自分が日本のことを知らないかを痛感しました。車で5時間かけて、シアトルまで行き、日本のことが学べる図書館で勉強したこともありました。
 こうした中で気づいたのが、もっと現場を知ること。日本に戻って早く現場で仕事をしたくなり、卒業後、迷わず家業である旅館業というフィールドに飛び込みました。

その際に不安だったこと

 景気がよくないと言われている時期でしたが、不安は全くなかったですね。景気は気にしていませんでした。景気が悪いというのはマクロな話であって、伸びている企業もたくさんあります。景気でなくてやる気で動いていますから。やる気のある人が景気を作っていくんです。
 ただ、戻ってすぐに上手くいったかというと、そんなに簡単ではなかったですね。旅館業の会議に行くと、その中で「マーケティングが・・・、マネジメントが・・・、」と言っても理解されなかったこともありましたね。

現代のHATAGO(旅籠)を目指して

 旅館の宿泊件数は減っているのだけど、ホテルの件数は増えている。海外からのお客様や若者は旅館に泊まってくれない。なぜなのかを必死に考えました。
 そこで江戸時代の「旅籠」まで戻ってみて、それを進化させていったらどうなるのかというコンセプトで、矛盾を感じる点は変え、必要なものを取り入れ、旅館を「HATAGO井仙」としてリニューアルしました。
 スリッパをなくして廊下も畳敷きにする、一泊二食をやめて夕食はオプションにする、プライバシーに配慮して布団敷きをやめるなど、とにかくお客様がこれまでの旅館に対して抱いていた不平や不満を汲みとっていきました。

仕事の内容

 仕事は温泉旅館の経営なのですが、「旅籠三輪書」という経営理念があります。三輪というのは一つはお客様、一つは社員、もう一つは地域。この3つがそれぞれ利益を得るようであれば、みんなが幸せになれるんじゃないかと思うんですよ。お客様に喜んでいただくことはもちろん、社員も自分の目標を達成するために働いてもらいたい。企業説明会でも、企業PRよりも、来た学生に「何がしたいの?」と聞いています。
 旅館は、地域文化のプレゼンテーションに最適な場です。北海道や沖縄のものを提供しても意味がない。地元の米や味噌を使って「ウマイ!」といってもらえたら、自分にとっても、地域にとっても利益にもなるし、地域も応援してくれます。
 旅館業は、お客様から「ありがとう」って言ってもらいやすい。“ありがとうフレッシュシャワー”の中で、一生過ごせたらいいですよね。自信を持っていえるのが、旅館業って平和産業なんですよ。見知らぬものが集まってきて一緒にお風呂に入ったり、まさに異文化コミュニケーション。だからサミットも旅館でやればいいのにと思っていて、囲炉裏を囲んで膝をつき合わせて「あの問題って、ぶっちゃけどうなの?」と本音で話し合えたらいいですよね。旅館を日本の平和産業として、世界に輸出したいと考えています。

現在住んでいる地域の魅力

 僕は、働くことはイコール遊ぶことだと思ってるんですよね。好きなことをやっていられたら、本当に自分らしくいられます。それくらいの考えで楽しんでやっていいと思います。都会の企業だとそういう余裕が残っていないと思うけど、新潟の企業は、まだそういうことができる環境が残ってるんじゃないかな。
 あと新潟の魅力って、農業もあるし工業もあり、そういう業種の広がりがある。たとえば金物屋さんをするにしても、それを作って売るだけでなく、農作業専門の金物をつくるとか、それと一緒にお米の通販を始めるとか。
 コラボレーションということでいえば、いろんな業種が新潟にはありますよ。
「田舎はやることがない」と言う人もいますけど、とんでもない。お客様に「ありがとう」と言ってもらおうとしたら、やらなきゃいけないことは山ほどあります。

休日の過ごし方

 あまり休日と仕事を分けてないですね。どこに出かけても、「宿に活かせないかな」と考えます。
 やはり自分の地域のことをもっと知りたいので、八海山に登ったり、地域の良さに出会えるスポットに足を運ぶことが多いですね。

若者へのメッセージ

 将来のことを悩んでいる人も多いと思いますが、大いに悩んでほしい。悩まないと答えは出ません。ただし、悩みぬいた結果、自分が選んだ道なら、たとえ、思っていたものと違っていても、少なくとも3年は覚悟を決めて、続けてほしいと思います。
 家業を継ぐか悩んでいる人に言いたいことは、後を継ぐことは、すごくいいことだと思うんです。先祖が紡いできたことを受け継ぐわけだから。継ぎたくても継ぐフィールドがない方もいます。僕も経営したいと思った時に、家業があったから実現できたわけですし。
 まずは目標を持ってほしいなと思います。そこから逆算して、自分に足りないものを勉強して身につける。
 何をやっていても、そこから何を学ぶのか、何のために働くのかを考えてほしい。たとえば実家が農家で、将来農家レストランをやりたいなら、じゃあ割烹で修業しようとか、食材を扱う会社で働こうとか。目標が定まっていれば、トイレ掃除でも床磨きでも、意味のあることになります。すぐに近道を進もうとしないことです。
 目先のライフスタイルを考えるのではなく、その先の人生観を考えてそれに向かって努力してほしいですね。

越後湯沢温泉 HATAGO井仙
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