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ニイガタビト

雪国に「ある」暮らしに心惹かれて

2018.03.19 掲載

津南町地域おこし協力隊

諸岡江美子さん

津南町

1987年生まれ。千葉県船橋市出身。短大卒業後、都内の認可保育園に5年勤務。その後、2014年に新潟県妙高市にある国際自然環境アウトドア専門学校の研究科自然保育専攻に社会人入学。里山の自然と地域のおじいちゃんおばあちゃんのかっこよさに魅了され、卒業後は同じ県内である津南町の地域おこし協力隊として活動する。

2018年3月で協力隊の任期満了。津南町に住み続け、雪国の暮らしを研究するワークショップ、エッセイ執筆などを行うClassic Labを立ち上げ活動を開始。

都会の保育園で子どもに学んだ自然の大切さ

私が生まれ育った千葉県船橋市という場所は、東京にも近くて便利な上に、漁師町なので伝統行事も残っている地域でした。ご近所付き合いの希薄な都会のようなこともなく、住みやすい地域だったと思います。そんな環境で育ち、短大卒業後は都内で保育士として5年働いていました。保育の仕事は体力も精神力も使う仕事でしたが、とても好きな仕事でした。0~6歳まで、子どもたちがまわりの人や環境と関わり合いながら育っていく過程に携わることができるのはとてもおもしろかったです。また、私に人と関わる喜びや、うまくいかないことでも素直に思いを伝えることで、いつか相手に届き信頼関係を結べる、という自信を与えてくれました。

その一方で、毎日決められたスケジュールをこなすことに追われる保育に違和感を持つようになりました。もどかしさを感じていたある日、ひとりの子どもが保育園のテラスに置いてあったプランターの土をひっくり返している現場に遭遇しました。いたずらする姿を見て「あぁまた注意しなきゃ・・・」とため息をつきそうになりました。けれど、プランターの土に触れるその子の生き生きとした表情を見て「いたずらをしているのではなく、遊んでいるのだ」ということに気付いたのです。
たったこれだけの小さな自然の中で、こんなにも没頭して遊ぶことができるのだと衝撃を受けたのを今でも鮮明に覚えています。

自然と子どもをつなぐ大人が必要

東京で子どもが育っていく環境として「自然」の重要性に気づき、「自然」に対しての知識を学びたいと思うようになり、2014年に妙高市にあるアウトドアの専門学校に入学しました。これが、私と新潟との出会いです。当時、野外活動や環境について学べる学校は他にもありましたが、「自然保育」に特化して学べる学校は他に見当たりませんでした。実際の授業では、森のようちえん(自然体験活動を基軸にした保育)での実習やフィールドワークを中心に、農業、野外活動、環境保全などを学びました。

その中で気づいたことは、いくら素晴らしい自然環境があっても、それらを活かせるかどうかは子どもと自然をつなぐ「大人」にかかっているということでした。自然を暮らしや学びに活かせる大人ってどんな人なのだろう?そんなことを考えていると、地域で出会ったおじいちゃんおばあちゃんにだんだん惹かれていきました。自ら食べるものや、生活に必要な道具を作る。厳しい豪雪地に暮らしていながら物腰はやわらかい。そんな彼らと過ごす時間がとても心地よかったのです。「子どもと自然をつなぐ大人」に求めている豊かさを、この人たちは持っているのではないか。そう思い、里山で暮らす人びとの生き方をもっと近くで見たいと思うようになりました。

ここで生きる人のありようを見たい

「地域の暮らしにどっぷり浸かりながら、できる仕事」を探していたときに出会ったのが、「地域おこし協力隊」制度です。せっかく活動するのなら、1年住んでいた新潟県や隣接する北信地域がいいと思っていた時に、たまたま募集を出していたのが津南町でした。そのタイミングで募集がなかったら、津南町に移住してくることはなかったかもしれません。実際に面接を受けに来たときに対応してくれた役場の方や地域の方がとても誠実で、親身になってお話をしてくださったこともあり、安心して来ることができました。

2015年4月に地域おこし協力隊になってから意識していたのは、とにかく地域の人たちと同じように暮らすこと。「地域の暮らしにどっぷり浸かる」という面では充実していました。ただ、地域おこし協力隊の仕事としては悩んだ時期も。地域に入った当初は皆さんの助けになることをしたいと思い、「何か困っていることはありますか?」と聞いて周りました。しかし、答えは「特に困っていることはない」でした。ここに暮らしている人たちは、「そんなに困っていることはないのだな、地域おこしなど望んでいないのかもしれない」そんなふうに考えてしまうこともありました。そんななか、唯一言われたのが「よそ者の目線で地域の良いところも悪いところも教えて欲しい」ということでした。そして「それを受けて行動するのは、わたしたち地元のやることだから」とも。

津南町で見つけた「あるもの」を生かす生き方

それからは主に、よそ者の目線で、地域の暮らしを見て、体験し、地域内へのフィードバックと地域外に発信する活動に取り組んできました。そこで見つけたのは、毎年3〜4メートルの雪が積もる豪雪地だからこそ育まれるたくさんのものでした。
雪でアクが抜けた山菜、食物が育てられない冬の食料確保のための保存の知恵、四季の移ろいの豊かさ、稲藁を使った生活道具、冬の手仕事のいろいろ、季節の労働、出稼ぎを組み合わせた働き方、など…

わたしがよそ者目線で興味を持ったことの根底には、変わりゆく自然のなかで、「ないものねだり」ではなく「あるものを生かす」、しなやかな生き方がありました。また、このような生き方は、厳しい環境だからこそ豊かさや美意識を高め続けたいという、先人たちから繋がれている「あきらめない心」でもあると感じています。

日々変化する環境のなかで、どう自分の「あるもの」を見い出していくか。「できない」ことにぶちあたったとき、どうやってまわりの環境の「あるもの」と自分の「あるもの」を編みなおしていくか。雪国の暮らしは他地域で生きる、変化への戸惑いを感じている人にとって、汎用性のある学びになるのではないかと思っています。

雪国の暮らしにもともとあった多様なライフスタイル

2017年4月に同じ移住者だったパートナーと結婚したのですが、実は移住と結婚という「変化」のあいだで葛藤した時期がありました。パートナーが暮らしているのは、車で1時間半の地域。「好きな人といたいから、好きな地域を離れる。好きな地域を離れたくないから、好きな人と離れる。どちらかを取って、どちらかを諦めるという選択はしたくない。けれど、どちらも取るという欲張りなことができるのだろうか…」。

そんな悩みを抱えていたとき、地域のおじいちゃんおばあちゃんとの会話にハッとしました。「おらたちが若い頃は、冬は仕事がないから出稼ぎに行っていた。あの頃は、一年中行ったり来たり、嫁さんが家を支えていたし、血縁を超えた地域で助け合って子どもも育っていったよ」。雪国にもともとあった暮らし方を知ったことで、わたしの不安は払拭されました。そして、ふたつの拠点を持つ「行ったり来たり婚」というライフスタイルを創っていく決心がつきました。

これからの暮らしと働き方

2018年3月末で地域おこし協力隊の任期は終了。この地域に残ることを決め、4月からは自分で仕事を創っていくことになります。津南町で見いだすことができた、雪国の目に見えない価値を「学びのエッセンス」として他地域の方と研究する滞在拠点を作ろうと準備中です。また、津南町だけに関わらず近隣地域で連携して農村の維持や子育て環境の課題解決に取り組む「雪の日舎」というチームにも加わっています。

それだけで食べていけるのか?という質問もよく受けますが、もちろん足りない分はアルバイトなどを掛け合わせながら暮らしていこうと思っています。田舎では、一つの仕事で都会にいた頃と同じ収入を得ることは難しいと思います。ただ、畑や田んぼで自分の食べるものは作りながら、必要ない消費はしなくなったので都会時代よりも支出が減りました。そういう暮らしを望むのであれば、田舎にも小さい仕事はたくさんありますし、人手は足りていません。わたしも単発の企画や執筆のお仕事、キャンプ・イベントの手伝い、農作業や宿泊施設のお仕事などをお願いされることも多々あり、協力隊任期中も副業として、お手伝いをしてきました。またそれらの仕事は求人情報に挙がって来ることはそうそうありません。3年間地域にいるうちに、さまざまな方と関わったこと、まずはお話を聞いたこと、そして自分は何を大事にしていて、何をやりたいのか、暫定でも良いので何かしらの形で表現し続けたことが、いまの仕事の繋がりになっているということを実感しています。

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